高尾山で体験した『木の顔化』

二月に高尾山に登った。シーズンオフだから人気もほとんどなくて山頂には雪が残ってるような始末。なんか急にかったるくなってきたんで「山頂の茶屋みたいなところで蕎麦と熱燗呑んで下山しようや。」と友人と話していた。

約束通り、山頂で温かいそばと熱燗で体をあっためて下山しようと登山道を下って行った。途中、分岐点があって片方は正規の登山道もう一方は林道。当然林道の方を下って行った。始めは手つかずの自然!ビバ大自然!!とか頭悪いことを大声で話し合っていたがだんだん静まり返って行く林道の空気に負けたのか二人とも口数が減って行き、最終的には無言で下った。

途中から気温が下がって、高尾山なのに霧も出始めた。「やばいなぁ。おい戻ろうか?」と声をかけたが返答が無い。「おいT!戻るか?」と大声で語りかけるがTは無言で先頭を歩き続けている。「おい、どうするんだよ!?」
と俺は声をかけるがTはひたすら歩き続ける。「変なやつ。もしかして怒ってる?」と思いながらも渋々あとを追いかけて下山した。

黙々と下山する途中、Tの様子がおかしいことに気がついた。何かをぶつぶつ喋っている。言葉にならないそのつぶやきは何かただならないことが起こっている証だった。急にTが立ち止まって、沢の向こうの杉林を指差した。つられて俺もその指差す方向を見た。最初は何が何だか分からなかったが、どうも緑が渦巻いているようなそんな光景が朧げに見えていた。杉の木々がくねっている。そんな感じだった。やがてその木々が「顔」を形取った時、俺はこれはヤバいものだ!と直感し、「おい!T!!急いで下山するぞ。」と無理矢理山道をダッシュで駆け下りた。

途中で何回かつまずいたが気にせず一気に駆け下りる。横目でちらちらと「顔」を見るがあちらも平行移動でついてくる!石を投げながら必死に駆け下りた。どれだけ走ったか分からないがコンクリートの道に出た瞬間もう安心だと思った。「顔」はもうついてこない。二人ともへたり込んでリュックに入ってたお菓子を分け合った。5月にも高尾山に登ったが二人とも正しい登山道を降りるようにしたのは言うまでもない。

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