南米への赴任時、通された応接室に奇妙な感じのする土器が置いてあった

知り合いの話。彼はその昔、仕事で南米に赴任していたことがある。さしたトラブルも無く無事任期を勤め上げたのだが、何度か不思議な事柄に遭遇したのだという。

ある山岳都市を訪れていた時のこと。地元企業との打ち合わせで、応接室に通された。向こうの重役が来るのを待っていると、奇妙な音を感じた。

どくん

いや音というより振動といった方が正しいかもしれない。気のせいかとも思ったが、静かな室内に確かに響いている。断続的に。規則的にリズムを取っているように。

音の出所を探していると、棚に飾られた一つの土器に目が行った。仮面を被った人が、体操座りしているようなデザイン。膝の上で両手を輪にしており、そこから蓋となって取れるような構造らしい。凝視していると、焼き物の筈の器が脈動しているような気がしてきた。調べに行こうか迷っているうちに、商談相手が来て機を逃す。同時に、奇妙な振動音もパタッと止んでしまったという。打ち合わせは無事に終わり、応接室を後にする。それ以上の怪は起こらなかった。

その夜、同僚と夕食に出かけた時にその話をしてみた。同僚も日本人だがその地に赴任して長く、何か知っているかなと思ったのだ。少し顔を顰めて話し出す。
「あのちょっと不気味な感じの焼き物でしょ。近よらん方がいいですよ。その昔、戦争捕虜の心臓を入れる器だったらしいですから。本当かどうかは調べていませんが。」

その夜に何を食べ、それがどんな味だったのか、全然思い出せないそうだ。この国の人たちって、昔は一体どんな争いをしていたんだろうな。ふと思ったが、彼もまた詳しく調べるようなことはしなかった。

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