北アルプスで滑落事故を起こした爺さんの不思議な話

今はもう歳をとって登山を引退したおじいさんなんだが、その人が若い頃、昭和30年代に春の北アルプスで滑落事故を起こしたんだって。まだ雪が結構残ってる時期で、ピッケルのブレーキが利かなくて10mほど岩の頭がところどころ見えている雪の上を滑り落ち、そのまま冷たい沢に落ちるかどうかってところで観念したら、何か黒い物に「どん」とぶつかって、そこで滑落が止まった。

ちょうどビリヤードの止め球みたいに、自分が止まった勢いで、その何かが身代わりのように沢に落ちていった。それが、どう見ても人だった。 パーティの仲間達も上から見てて、どう見ても人に見えたとのこと。冬の間に落ちてそのまま死んだ人なんじゃないかと、助かった人が拝みながら尾根に戻って、その後捜索したけど結局、その死体は見つからずじまい。当時は山岳警察とかの組織なんか整備されてなくて、タイミングよく入山してた山岳会の有志が合同で探したらしいんだけど。

その助かった人が帰宅したら、その人のお母さんが玄関に走りこんできて、胸倉つかんで、「お前、ご先祖様に助けられたね。 夢にちょんまげ結った先祖と名乗る侍が出てきて、お前の息子が落ちるのを助けたって言ってたのよ。」 怒られるから事故のことを内緒にしようと思った矢先だった。とりあえず家族全員で墓参りに行ったんだって。 それでも山をやめなかったのは大したもんだ。

メールアドレスが公開されることはありません。