もう20年前近く前の話だけど。俺は俗に言う走り屋をやってて、よく峠とか山に走りに行っていた。当時は東京にいてその周辺を走ってたんだけど、大学の夏休みには長野の祖父の家行ってそっちで走ってた。祖父の家の周りは本当に田舎って感じでコンビニなんて勿論無くて、街に出ないとまともに買い物なんてできない位田舎だった。俺が小学校入る前から祖父の家に行くのは夏の恒例行事で、都会育ちだった俺には田舎の光景が始めてみる物ばかりでとても面白かった。祖父は昔から山で遊ぶ前に、俺に「絶対に○山にだけは行くなよ」って言っていた。その山は祖父の家から比較的近く、遊び場には絶好だったけど近所の子達も「親に行くなって言われてるから行かない」と言っていたから、結局子供のころは登る事は無かった。
20になる頃には祖父の話も忘れて、祖父も自分にそんな事を言わなくなっていた。当時俺はドリフトばっかりやっていて、走る場所も舗装された峠道だったんだけど。WRCっていうラリーレースを見て俺は未舗装路を走るのって面白そうだと思い、初代ランエボを買った。20年近く前って言っても東京近郊には未舗装路なんて無く、長野に行ったら未舗装路を走ろうと考えていた。その後祖父の家に行った時いつも走っている峠道じゃなくって、そこから一本はずれた未舗装路を走りにいった。そこは山道らしく細い道だったが気分は以上にハイになっていて、ガンガン進んでいった。走ってる途中木か何かを踏んだらしくタイヤがパンクしてしまった。ちょうどちょっと開けた広場?というか木が生えていない原っぱのような所があったので。そこで俺は車を止めて修理しようと思った。タイヤはドリフトやってた時代の癖でトランクに入ってたから問題なくって、ジャッキも下が土だけど何とか車体は上げられた。タイヤを付け終わって軽く一服しようと思ったら木の影に何か奇妙なものがいた。
そいつは二本足で立っていて、遠くて良く分からなかったが小学生ぐらいの身長だった。俺はこんな夜遅くに小学生がこんなところにいるか?と疑問に思った。そこは舗装された道から車で20分ぐらい走ったところだし、山の奥深く過ぎて民家があるとも思えなかった。そんな事を考えてると奴はこっちに歩いてきた。近づいてきたら分かったが、そいつは明らかに人じゃなかった。体は全身毛に覆われていて、顔だけが人の赤ん坊みたいだった。
10mぐらい接近されて俺はこれはやばいと思って急いで車の中に戻ってエンジンをかけた。そしたらそいつは一気に走り出して車のドアを掴んできた。エンジンは一発でかかって思いっきり空ぶかしをしてやった。かなりDQNな行為だが当時の俺の車サイレンサー無しの仕様だったため、異常な爆音が鳴った。奴はそれに驚いたようですぐに車から離れていった。俺はその後とにかく急いで山を降りて祖父の家に帰った。
家に帰った俺は祖父にその事を話した。そうすると祖父は今まで俺に怒った事が殆ど無い穏やかな性格だったが、ものすごい勢いで怒られた。その後泣きながら本当に無事でよかった。と俺を抱きしめてくれた。俺が入ったその未舗装路は祖父が昔から入るなといっていた○山だった。祖父曰くそこには山の神様が住んでいるから、人は絶対に入っちゃいけない場所なんだと、後から教えてもらった。