よく山でヤッホーと叫んだりして山びこを楽しんだりするがあれは案外怖いものなのかもしれない。
快晴の山ほど気持ちのよいものはない。ましてや5月の中旬くらいの気候は特に気分がいい。久しぶりに登った山でそんなことを思いながら見晴らしがよい山の中腹あたりで叫んでみた。
『ヤッホー!』
・・・・・・シーン・・・。
何も聞こえなかった。場所が悪いのかと思ったので、また少し登ったところで叫んだ。しかし返ってくると思った声は待てども聞こえなかった。また少し登り叫んでを数度繰り返して相変わらず聞こえない声にムッときたので山に叫ぶ内容が乱暴になってきた。
『アホー!』 『バカー』 『クッソッタレー』
しまいには『死ねー』と叫んだ。
次の瞬間返ってきた声は『オマエモシンデミルカ?』だった。振り返ってあたりを確認したが誰も居ない。最後の声は山から帰ってくるのではなく耳元で聞こえたのだった。それもはっきりと。低い男の声で。