祖母の若い頃の体験談。題して「井戸神」。
庭の井戸が枯れた。もう使うことがないからと祖母は井戸にふたをして、そのまま放置しておこうと思った。数日たって祖父の足が痛み出し、右足だったか左足だったかがはれ上がった。もちろん転んだ覚えはない。医者に行ったが原因はわからず、祖父はシップをして痛む足を引きずりながら毎日出勤するハメになった。
ある日の午後、いきなり玄関の戸がガラガラっと開く音がした。行商人でもきたのかと祖母が玄関に出てみると、はかま姿の中年男が玄関に立っていた。彼は自分の名前を名乗って、〇〇山(山の名は忘れたそうだ)で修行した者だと自己紹介した。きょとんとする祖母に中年男はこう切り出した。
「おたくの井戸がちょっと…」
井戸は中庭にあるので外からは絶対に見えないはず。祖母は非常に驚いたそうだ。
「使っていない井戸をそのままにしていませんか?」
たずねられ、祖母はこの人にウソをついてもばれると思い、使わなくなった井戸にふたをして放置してあると正直に答えた。
「もう使うことのない井戸はそれなりの儀式をしないと。このまま放っておくとけが人や病人が出る恐れがありますよ。悪いことは言いませんから神社に頼んですべき儀式をちゃんとすることです。」
男はそういうと、ぼうぜんとする祖母の前からすぐ立ち去ってしまった。祖父の原因不明の足の痛みはやはり…と思い、これはきちんと儀式をするしかないと考えた祖母は、すぐに近所の神社に相談し、神職(しんしょく)にきてもらってお払いをしてもらった。すると不思議なことに、一週間もたたないうちに祖父を悩ませた頑固な足の痛みやはれがうそのように引いてしまったという。
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井戸の話ってよく聞くね。あと竈(かまど)も同じような話がよくあるみたい。家の改築などで竈を壊さなくてはならない時は、きちんと神事をとりおこなわないといけないらしい。