ある日、祖父の顔が突然痣だらけになった。その痣にはある秘密が…

確か3歳の時だと思うんだけど、つい昨日までなんともなかったおじいちゃんの顔が黒いアザでビッシリ埋め尽くされたことがあった。アザというか、ちょっと青みがかった黒い斑点という感じ。すごくビックリしたのと、顔が怖いのとで大泣きした。「おじいちゃんの顔がヘン!」って訴えたけど、両親もおばあちゃんもおじいちゃん本人も、相手にしてくれなくて困ったようにあやされるだけだった。その斑点が消えないまま、おじいちゃんは3日くらいして亡くなった。まだ60代だったし毎日畑に出てたのに。朝、おばあちゃんが起こしに行ったら死んでたらしい。おじいちゃんは顔が黒くなる病気で死んだんだと思ってたけど、そんなこと口にできる空気じゃなかったから何も言えなかった。

数年後、小2の時、地区外から女の子が引っ越してきた。その女の子が意地悪な子で、隣の席になった私を机の下から蹴ってきたり、私の持ち物(消しゴムやキーホルダー)を盗んだりした。先生に言っても「〇〇ちゃんは転校生なんだから親切にしてあげなきゃダメだよ」と逆にこっちがたしなめられた。すごく腹が立って、〇〇ちゃんなんていなくなればいい!とイジワルされるたびに思ってた。

ある日、登校したらその子の顔に黒い斑点が浮かんでいた。その時まですっかり忘れてたけど、おじいちゃんの顔を埋めつくしていた。アザのような斑点と同じ感じだった。朝は額とほっぺたにしかなかったけど放課後には顔中に広がってた。でも周りは誰も反応しない。その時、「これは私にしか見えないんだ」って自覚した。誰にも言えないまま帰った。

次の日の朝、やけにあわてた様子の母親に起こされた。「〇〇ちゃんが交通事故にあった」という連絡網が回ってきたらしい。私はギョッとした。事故の詳細は伝わっていなかったけど、〇〇ちゃんは死んだだろうと思った。学校に行ったら全校集会が開かれた。〇〇ちゃんが、今朝、交通事故にあって亡くなりました、と知らされた。あの斑点は、これから死ぬ人に浮かぶ印なんだと子供心ながらに確信した。怖かったけど、大嫌いな〇〇ちゃんが死んでスッとした気もした。

だけど小5になっておばあちゃんが亡くなる時には見えなかった。中学に上がって、母方のおばあちゃんが亡くなる時にも見えなかった。もう見えなくなっちゃったのかな?と思ったけど、そんなことは誰かが亡くなった時以外はすっかり忘れて毎日過ごしてた。

そんな時、高校に豪人の外国語教師がやって来た。顔もスタイルも服のセンスもよくて最初は人気だったけど授業のやり方がひどくて、すぐに嫌われ者になった。英語が得意な生徒を当ててしゃべらせる→ダメ出しの嵐という感じ。最初は英語に対する指摘なんだけど、ヒートアップしていくうちにこれだから日本人は~とか、野蛮な民族~とか、反日発言になっていく。今だったら問題になりそうな話だけど当時は誰も逆らえなかった。ペアになって教えてくれていた英語教師がやんわり止めようとしても、その人が若い女性だったからか舐めてかかっていて、今は僕がしゃべっているんだ!と大声を出して泣かせたりしていた。

私も英語の成績がよかったから標的にされて、かなり侮辱された。それまで楽しい高校生活だったのに一人の教師のせいで気が重くなった。友達と「ほんと死んでほしい」「殺したい」なんて話してた。グチの言い合いの時は冗談半分だったけど、試験で高得点をキープしているのに成績表の数字を下げられて受験に影響しそうになって、私の殺意はだんだん本物になっていった。

小学校の時に「〇〇ちゃんなんていなくなっちゃえ」と思ってたのよりかなり強い意思で「××先生、しね」と毎日思ってた。そしたら、その先生の額にも斑点があらわれた。最初はホクロみたいに小さかったけど、1週間くらいかけてじわじわ顔中に広がっていった。あー、こいつ死ぬわ、と思った。誰にも言わなかったけど、斑点が顔にビッシリ浮かんだ頃、案の定その先生は死んだ。

自殺だったらしいけど、生徒に知らされたのは「事故」だった。その先生が死んで気が付いた。それまでも、もしかしたら…って考えてたけど、この件で確信した。これから死ぬ人に黒い斑点が浮かぶんじゃなくて私が憎いと思った相手に黒い斑点が浮かぶんだってこと。思えば、最初に斑点が浮かんだおじいちゃんも、よく私を叱ってた。ちょっとしたことで怒鳴ったり、叩いたりしてきたから、私はおじいちゃんが嫌いだった。幼いながらに、「死ね」とは思わなくても、本能的に憎んでたはず。だから、大好きなおばあちゃんが亡くなる時には斑点は浮かばなかった。そのまま高校を卒業して、大学は何事もなく平和に過ごした。新卒で就職して、今では結婚して子供もいる。

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