小学1年の頃、山にキャンプに来ていた時、ちょっとした冒険心でコッソリ周囲を探索してたら獣道(道の右側は上り斜面、左側は急な下り斜面で下は川)を見つけた。その獣道を道なりに歩いてたら、道そのものが足元から崩れて、斜面を10メートル程転がった。途中の木にぶつかる形で何とか止まったけど、落ちたら死んでたろうなぁと思う…。
次は小学5年生の頃。これは、一番恐ろしかった。これ以上の体験は、後にも先にも無い。内容が内容だけに信じてくれない人も居るが、俺は確かに見た、と思っている。そして見たのは俺一人じゃない。親の後に付いて山中の獣道を歩いてた。季節は夏。周囲は夕闇が迫って来ていた。陸自空挺レンジャー出身の親父が先導していたので、疲れはしていたけど恐怖は無かった。頼れる親父であった。
聞こえる音といえば二人の歩く音と木々のざわめき、種類は分からないが鳥の鳴き声と、谷を流れる川の音…だけだと思っていた。何か、人の声が聞こえた気がした。でも、特に川の音などは人の声に聞こえる場合もある。最初はそれだと思っていた。けれども、気にすれば気にするほど、人の声としか思えなくなってきた。
「とうさん…誰かの声、聞こえない?誰だろ、何言ってるんだろ?」
「いいから、歩け」
言われるままに、黙々と歩いた。だが、やっぱり声が気になる…どこからしているんだろう?周囲をキョロキョロしながら歩ていると、谷底の川で何かが動いているのが見えた。獣道から谷底までは結構な距離がある上に、木や草も多い。そして夕闇が迫っているので、何かが居たとしてもハッキリ見える筈は無い。ところが、ソイツはハッキリと見えた。
獣道と谷底の川は距離があるものの、並行したような形になっている。そして、ソイツは谷底を歩きながら、ずっと我々に付いてきていた。
「お~い、こっちに来いよぉ~!」
谷底を歩く坊主頭の男は、我々に叫んでいた。ゲラゲラ笑いながら、同じ台詞を何度も繰り返している。それだけでも十分異様だったが、その男の風体も奇妙だった。
着ているものが妙に古い。時代劇で農民が着ているような服だ。顔は満面の笑顔。だが、目の位置がおかしい。頭も妙にボコボコしている。そして、結構な速度で移動している。ゴツゴツした石や岩が多い暗い谷底を、ものともせず歩いている。大体、こんな暗くて距離もあるのに、何故あそこまでハッキリ見えるんだろう?と言うより、白く光ってないか、あの人?小学生の俺でも、その異様さに気付き、思わず足を止めてしまった。
「見るな、歩け!」
親父に一喝された。その声で我に返る俺。途端に、恐ろしくなった。しかし恐がっても始まらない。後はもう、ひたすら歩くことだけに集中した。その間も谷底からは、相変わらずゲラゲラ笑いながら呼ぶ声がしていた。
気付けば、俺と親父は獣道を出て、車両が通れる程の広い道に出ていた。もう、声は聞こえなくなっていた。帰りの車中、親父は例の男について話してくれた。話してくれたと言っても、一方的に喋ってた感じだったけれど。
「7,8年位前まで、アレは何度か出ていた。でも、それからはずっと見なかったから、もう大丈夫だと思っていた。お前も見ると思わなかった。呼ぶだけで特に悪さはしないし、無視してれば何も起きない。ただ、言う事を聞いて谷底に降りたら、どうなるか分らない。成仏を願ってくれる身内も、帰る家や墓も無くて寂しいから、ああして来る人を呼んでるんだろう」
大体、こんな感じの内容だったと思う。その後も、その付近には何度か行ったけれど、その男には会ってない。今度こそ成仏したんだろうか?
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お化けよりレンジャー訓練の方が恐ろしいという・・・
訓練中に家に帰りたくて崖から飛び降りたっていう記事を見たことあるし、極限状態だから色んなもの見えるんだってさ。でも怪異とは判断がつかないほど追い込まれてるから、見てるのかもしれないけど幻覚かもしれないというレベルなんだとさ。