迷い人を饗す山奥の美人の正体

祖父母っ子だた私が、泊まりに行く度にせがんでは聞かせてもらった話がある。
祖父は子供の頃岡山に住んでいて、そこは学校に通うにも山1つ越えなきゃいけないようなへんぴなとこだった。 ある日親戚が山越えたとこに会合という名の酒盛りに行った。
でその帰り、手土産にいなり寿司を下げてイイ気分で夜道を歩いていた。でも何かおかしい・・・さっきからずっと同じ道をぐるぐる回っている気がする。

いつまで経っても越えるべき山すら見当たらない。更に運の悪い事に雨まで降り出した。
「これは困ったことになったなあ」と少し歩調を速めた。けれど一向に見知った道に出ない。そうなると酔いも自然とさめてくる。ほとほと困り果てたその時、明かりの点いた民家が見えた。

「地獄に仏とはこの事だ!!」とホッとし、その軒先へ駆け込んだ。
トントントン・・・「ごめんください・・・」トントントン・・・「ごめんください・・・」
すると中から息を呑むような美人がそっと顔を出した。「どうされました?」男が経緯を説明すると女性は、男を中へ導きこう言った。「それは大変だったでしょう。あなたさえ良ければ今夜ウチへ泊まって行って下さい」と。男にとっては願ったりかなったりなのですぐOKした。

女性は一人でそこに住んでおり、あなたみたいにウチに迷い込んで来る人は結構居ると言った。「雨に濡れて体が冷えたでしょう。すぐお風呂を沸かしますので、沸くまでこれを」と
温かそうに湯気をたてるお茶とおいしそうな牡丹餅を出してくれた。酒を飲んでちょうど甘い物が食べたかったし、冷えた体に温かいお茶は嬉しい。男は餅もお茶もすぐたいらげおかわりまでした。

そうこうしてるうちに風呂が沸き「どうぞゆっくり温まって下さいね」と風呂場に案内された。
男は女性が沸かしてくれた風呂に肩まで浸かり今日の出来事を思い出しながらいつの間にか眠りに落ちていた・・・。

次の日、昨夜山向こうまで会合に行った男が帰って来ないというので村を挙げての山狩りが行われた。その男が変わり果てた姿で見つかったのは日が昇りきった頃だった。後から聞くと山狩りをしていた人が見つけた時には、男は肥溜めの中で肩まで浸かってぐっすり眠っていたらしい・・・その横には地蔵に供えてあったのだとおもわれる湯のみの中にションベンがなみなみと注がれ、小皿の上には馬糞が置いてあった。

男が手土産に持ってたいなり寿司は乱雑に開けられ食べ散らかされていたそう。この辺りではキツネがしばしば目撃され、今回の事件もいなり寿司を狙ったキツネの仕業だろうという結果に落ち着いた。

私の説明ではあんまり怖くないかも知れませんが、これを聞いたのが小学校上がる前だったので「そんなキタナイ物を平気で食べれるような魔法を使うキツネって怖い!!」と幼心にキツネ=悪者の図式が成り立ちました。この話聞いた後は一階にトイレに降りるのも出来なかったくらい・・・用足して帰って来る時に騙されるんじゃないかとか。


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