祖母の体験。
戦争中、女子挺身隊で、群馬県の山奥で松根油か何かを取る作業にたずさわった。
当然、女学生でも夜、みんなで山に寝泊りする。
寝付かれなかったある夜、カン、カンと斧で木を切る音が間近にして、そのうちにバリバリと音がして、とてつもない大木が倒れてきた。
ドドドドーンという地響きが大地を揺らして、自分の体が少し浮いた。
びっくりして起き上がったが、周りの級友は何事もなく寝ている。
みんな重労働で疲れているので起こすわけにもいかず、かといってもう寝られないので、そのまま起きていて、夜明けとともに木の倒れた現場らしい方向に行ってみた。
すぐ近くのはずで、簡単に見つかると思ったのだが、探しても探しても何事もない。
規律が厳しいのでいつまでも離れているわけにいかず、みんなのところにもどった。
みんなフツーにしていて昨夜の音を聞いた人はいないようだった。
あとで山奥の田舎出身の子に聞いてみると、『天狗倒し』というもので、音と地響きだけで実体はない。ということだった。
祖母に言わせると「とてもリアルで現実感がある幻の音」だそうだ。