山仲間の話。
引率で、中学生グループを登山に連れて行った時のことだ。
難所もなく登りやすい山だったので、特に問題もなく頂上まで辿り着いた。
昼食を食べてから、記念写真を撮ろうと皆を並ばせてポーズを取らせる。
二枚ほど撮影した直後、いきなり一人の女子が「痛いっ!」と叫び始めた。
慌てて駆け寄ったが、ただ頭を抱えて「痛い痛い」と喚くばかり。
救急を呼ぼうか悩んでいると、始まった時と同様、唐突に泣き声が止んだ。
泣いていた女子はキョトンとした顔で、「アレ?治った……」と呟いている。
落ち着かせて事情を聞いたところ、突然頭が誰かに引っ張られたのだという。
それも髪の毛でなく、頭の皮を直接ガシッと掴まれ、真上に引き上げられたのだと。
頭皮を確認してみたが痣などもなく、別に問題はないだろうということになった。
その後は何のトラブルも起こらずに下山できたという。
それきり忘れていたのだが、写真の現像が上がってきて絶句した。
一枚目はごく普通の集合写真だったが、二枚目に不気味なモノが写り込んでいる。
空から下りてきた長い一本の黒い腕が、件の女子の頭を鷲掴みにしていた。
生徒達には一枚目の写真のみを配り、二枚目はネガごと破棄したのだという。
気になって色々と調べてみたところ、昔そこは神隠しの山として有名だったらしい。
地元の歴史家によれば、つい最近まで、「曇天の日には、子供だけであそこに登ってはいけない。その内の一人は下りてこられないから」という内容の言い伝えがあったという。
その山は「サラエ」や「コサラエ」と地元で呼ばれているそうだが、それも元々は「子攫い」という語が由来なのだそうだ。
「どんな理由であれ、子供には引率が必要だなと実感したよ」
真顔で彼はそう言っていた。