自分は群馬県在住なんだけど、
両親が自然好きだった事もあって、毎年夏になると同県にあるT岳まで出かけている。
登山目的だけじゃなくて、バーベキューしたり、ハンモック吊して本読んだり…。
沢蟹取りが大好きな子供だった自分は、よく父の後にくっついて、チョロチョロ流れる沢を探検したりしてた。
この体験をしたのは小学生の時で、この時、両親は2人共バーベキューに夢中だった。
お腹がいっぱいになってしまった自分は、1人で近くを探検してみようと思った。
この辺は毎年来ている場所だったし、遠くに行くつもりなんて更々無かった自分は、
そう遠くない所にある滝へと足を運んだ。
初めは水辺でバシャバシャ遊んでたんだが、ふと顔を上げた時、流れ落ちる滝の横に、獣道があるのを見つけた。
今まで何度も来ていたのに、そんな獣道を見たのは初めてだった。
なんだろう、あれは。
あの獣道の先…滝の上には何があるんだろう。見たい。確かめたい!
いつもならそんな事、絶対に思わない。だって超ビビりだから。
父を呼んで一緒に行って貰う事も思い付かなかった。
ただ、視線の先にある獣道に進まなければと、そう思ったのを覚えている。
獣道は思ったより急でぬかるんでいたけど、木の根っこや草を掴みながら必死で登っていった。
けれど、登りきった先には、自分が想像していたのとは全く違う景色があった。
滝なんてない。
石。そこにあったのは石だった。
真っ白な石が、一面を埋め尽くすように、どこまでも続いている。
そしてその白い風景の両端には、深い緑色の木々が、沢山生い茂っていた。
怖い、怖い!上手く息ができない。
どうして来てしまったんだろう。ここは来てはいけない場所だ。
見た瞬間、直感的にそう感じた。
幽霊を見たとか、ホラー映画を見た後の怖さとか、そういうんじゃない。
何て表現したら良いか分からないけど、その場所は綺麗だったんだ。綺麗すぎて怖かった。
人間が来る所じゃないって思った。
だってそこは、今までしていた水の音も風の音も、鳥の声もしなかったんだ。
痛いくらいに静かで、無言の圧力をかけられてるみたいだったよ。
自分は怖くて怖くて、うずくまりながら目を瞑って、泣きながら父を呼んだのを覚えてる。
次に目を開けたのは、父の背中の上だった。
河原でうずくまってたって言われたけど、あれは絶対夢なんかじゃない。
大学生になった今でも、夏になるとT岳へ行っているけれど、あの場所に行けたのは1度きりだ。