とある地方の河童について

父親の従兄弟がM町に一族を構えていて、父が子供の頃、M町で遊んでた出来事をよく語ってくれた。M町の真ん中にM町と同じ名前のM川が流れていて、そこによく河童が現れていたらしい。

もう他界したが、父親の語る河童の話は妙にリアリティがあって面白かった。例えば、河童は亀の様な甲羅があるわけではなく、背中がワニの鱗の様に硬いだけとか、 頭の皿は犬の鼻の様に粘膜質で、皿の周りの毛から水分補給してて、別に渇いても死なない。ただ、渇くと全身が干からびて、皮がつっぱって動きが悪くなる。頭の皿はそのバロメータになってるとか。(河童にも親がいて、頭の皿が渇く前に水に戻れときつく言われてるらしい)河童は特有の平泳ぎのような泳ぎ方で、人間がクロールするより速い。しかし、父達がクロールを河童に教えると更に速くなった。
など、河童の身体の仕組みや生態が事細かく伝わった。それはもう、本当に河童と一緒に泳いだり、相撲を取った人間でないと語れないようなリアリティ。


で、俺も小6になって、父の作り話だと理解した頃の正月、親戚の家で呑んだ父が、酔い覚ましに散歩しようと誘ってきた。貰うモン貰って、オバサン達の相手にも飽きた俺は父親の誘いに乗った。

散歩中、M川の橋の上で何かに気付いた父親が、突然、川の上流に向かって「おーい!おおーい!」と叫んで、手を振り始めた。橋の歩道には数名の人がいて、父の突然の奇行に立ち止まり、父の見つめる川へ視線を落とした。俺も川を凝視する。すると、胸上くらいを水面から出した人型の・・・河童が手を振り返してきたのだ。手には水掻き、頭は円形禿。絵でみる河童の姿。 橋の上の人達も、若い人は「えー!何だアレ」、老婦人は「あら珍しい」みたいな反応。本当にM川に河童がいたのだ。これは30年前の話。

ちなみに俺は今、縁があって結婚してM町に住んでる。M町は夏に、『がわっぱ(河童のこと)祭』というのがある。

以下、父が語った河童について

<生態>
・口は漫画にあるようなクチバシではなく、類人猿のような突き出た口に薄い唇。
・身体は臭くないが、微妙に泥のような臭い。口臭は臭い。
・嫌いな人間を攻撃する時は、臭いネバネバした液を口から吐く。それは口臭をさらに濃くした臭い。
・顔をしかめるようにして鼻を絞れる。
・尻尾がある。
・目は釣り上がって瞼がある。
・目を見開いて歯を剥き出しにすることがあるが、それは怒って威嚇ではなく喜びの表情。
・歯は全部尖っている。鮫のような感じだとか。
・腕の関節が弱い。すぐに脱臼する。右腕を引っぱると左腕が縮むと言うのは迷信。
・寿命は30年くらい。9才でつがい(成人)になるらしい。人間の子供と遊ぶのは3~6才位
・成人した生体は、人間の大人の身長より高い。
・雌成人は猿のような小さな乳房がある。(哺乳類か?)
・皮膚はイルカのようなウエットスーツのような感じ。ヌルヌルしてない。
・色は黒と黄色を混ぜた感じ。ミドリでもないし、斑点もない。怪我や傷が残りやすい。
・力は強い。相撲は力技での寄り切り相撲。引き落としのような技巧系やサブミッションに弱い。
・走るのは遅い。息があがるとハァハァ言う。(肺呼吸?)

<知能・文化>
・食事は魚丸呑み。岩ゴケ、ススキやユリの根等を食べる。野草・キノコの知識は豊富。
・親、家族はいるが、3才以上は一人で食事。調理はしない。火を嫌がる。
・子供同士で遊んでも、親河童は人間に近寄ろうとはしない。遠くから頭だけ出して見てる。
・河童同士のコミュニケーションは不明だが、日本語は解る模様。
・話す時は接続詞がなく、「俺 お前 相撲」「弟 生まれる」「俺 お前 これやる。これ 綺麗だ」という感じ。
・貸す借りると言う概念がない。苔を剥がす時、父が肥後守を「貸してやるよ」と渡すと、「お前、俺、これやる」と言い、苔食った後、水中に持って帰った。
 翌日、上記の台詞でガラスか水晶か分からないが、ピンポン玉サイズの透明の玉をくれた。
・義理堅く、恨みは必ず晴らす。お返し、仕返しはキッチリする。
・尻子玉を抜くってのは迷信。転んで擦りむいた子供に、何か白い膜を張り付けると、2日で傷が治る。その子の傷が治ると、何か寄越せと要求される。ギブアンドテイクの精神らしいw
・他にも不思議な医療術を使う。腹痛の子の弟が黒い石を渡され、兄に舐めさせろと言う。 兄に舐めさせたら翌日腹痛が治ったらしい。石は洗って再使用できた。もちろん後日要求あり。
・縄術に長けている。船着き場のロープを不思議な結び方で(幾何学模様のように)結んで、誰も解けなかったのを、2~3ヵ所引っ張って一瞬で解く。同じ感じで、絡まったテグスでも解いた。
・魚の量を一族で管理してて、子供の釣りには寛容だが、大人の釣り人や投網には容赦しない。 そしてM川では、釣り人や投網を打つ人はいなくなった。
・基本負けず嫌い。喧嘩になった事が何度かあったが、勝負は相撲・水泳・駆けっこ。 殴り合いの喧嘩をすれば、怪力なので子供なら下手すりゃ死ぬ。ネバネバも吐かないし紳士的。
・上記に年齢が何度か出てるが、実は正確な年齢・暦の概念はない。「冬を何度越したか」が河童の年齢の基準。冬は餌が少なく、寒さで彼等が死に易いから。
・河童の死体は干からびて小さくなる。水に浸かって死んだ場合は、他の水棲生物と同じく分解される。死んだ者に対しての哀悼は無いが、親だけは子供が死ぬと悲しむ。

『とある地方の河童について』へのコメント

  1. 名前:匿名 : 投稿日:2016/01/13(水) 01:17:24 ID:
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    寿命30年だと、父が手を振ったのは顔見知りって訳ではなさそうだね
    がわっぱって呼ぶのは九州だったかな?
    平家の落人伝説も、有ったりする?

    もっともっと聞いておいてほしかったな
    お父様、雲の上でも相撲してらっしゃるかも

  2. 名前:匿名 : 投稿日:2016/09/06(火) 05:32:18 ID:
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    錆びないように、ステンレスの小ヘラ2~3本プレゼントして
    「こいつ 俺 子供」
    「お前 こいつ 仲良く」
    ヘラが擦り切れて無くなるまで、お付き合いできたかも
    惜しいなあ
    今からでも肥後の守で、興味引けないかなあ

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