龍笛を聴きに来たもの

自分の母親は、以前巫女さんをやっていた。
結婚式の時に演奏する、雅楽の龍笛って言う楽器を担当していて、家でもよく練習していた。
龍笛はフルートみたいな横笛で、楽譜はドレミの音符じゃなくて、『ト・ラ・ロ』とかカタカナで表すんだ。
笙(ショウ)や篳篥(ヒチリキ)って言う楽器と一緒に演奏するんだって。(これは余談です、ごめんなさい)

そんな母(と言うか父の影響か)は、結婚前から登山が趣味だったようで、
連休になるとよく山に連れて行ってもらった。
その日もよく行く山に連れて行ってもらい、テントを張って寝た。

その日、夜中ふと目が覚めた。トイレに行きたくなったんだと思う。
いつもなら気配を察して父が起きてくれるのだが、その日は起きてくれなかった。
外からは耳慣れた龍笛の音が聞こえる。
妹の隣で寝てる筈の母親の姿が無いので、テントの外に出ると、
大きな岩上で母が龍笛を吹いていた。
その時、満月だったのかどうかは忘れたが、
月明かりの下で笛を吹く母親は、子供ながらに素敵だなあと思ったのを覚えてる。

で、母親に「なにしてるの?」みたいに声をかけると、
母親はものすごい勢いで岩から降りてくると、自分を連れてテントに戻った。

あとで聞くと、眠れなかったかなんかで外に出ると、
月がきれいだったし周りにテントを張っている人も居ないので、龍笛の練習をしようと思ったらしい。
すると、周りに霊の様な、精霊の様な、とにかく人間じゃないものが集まって来た気配を感じた為、
やめるにやめられず、龍笛を吹き続けていたのだと言う。
自分が出て来て声をかけるとその気配が消えたので、急いでテントに戻ったらしい。

なんとなく不思議な話だなあと時々思い出すよ。

龍笛についてググッて見たら、
「龍笛」はその名のとおり、空を舞う龍の鳴き声であると言われており、
天を表す「笙」・空を表す「龍笛」・地(人)を表す篳篥で合奏することによって、
1つの宇宙を表していたと伝えられています。
とあって、何となく神様が聞きに来たんじゃないかな、とメルヘンな想像をしている

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