それは、私が小学校4、5年の頃の体験です。
私の実家は、山の中の田舎です。
有名な山はないのですが、周りをぐるりと低い山に幾重も取り囲まれています。
小学校には歩いて1時間ほどかかるので、夏休みなどはほとんど同じ集落の友達と遊んでいました。
私の同級生は女子男子2人ずつでした。
でも、いつもは年齢は関係なく、中学生に面倒を見られつつ、皆で遊ぶのです。
でも、その日集まったのは同級生4人だけでした。
何して遊ぼうかと相談しているうちに、誰が言い出したのか、海を見たいということになりました。
いつも皆と上って歩く山の、もう一つ先の山へ登ったら絶対海が見えるはずだ。
何の根拠もないのに皆そう思い込んで、おにぎりとお菓子、水筒を持って出発しました。
山は杉の木を植えてる場所と、雑木の森にキレイに別れていて、その境目が道になっていて、迷うことなく歩けます。
途中何度も寄ったことのある、水のわき出ていて昔水晶が取れたという洞穴の近くの、小さな祠に手を合わせて、
先にどんどん歩いていきました。
遠足くらいしか海に行ったことがなかったので、皆わくわくしながら、海の話をしながら歩きます。
やっと着いたときには、お昼はとうにすぎていました。
そして、山の上からきらきらと光る海が見えます。
見晴らし台などないので、木に登っておにぎりを食べながら、夏の日差しに輝く海を十分楽しみました。
そして、またてくてくと歩いて帰りました。
帰って、両親や祖父母に言うと、「何馬鹿なこつ言っちょる」と笑われました。
兄などは地図帳を持ってきて、絶対海など見えないことを説明してくれました。
ただ、その頃はまだ生きていた曽祖母だけが、
「よかもんを見せっもろてよかったね」とにこにこと笑ってくれました。
もちろんその後に皆で行ったときは、海などなく次の山が見えるだけでした。
現在、私だけが県外へ嫁に行き、時々帰ってくると、同級生同士で結婚した友人宅によばれます。
色んな話をしながら、時々ふと誰かが「海奇麗だったよね」と口に出すと、
あの木々の間から見た海を思いだします。