学生の頃のバイト先での話です。
駅前のビルにテナントとして入ってたゲーセンで働いていたんですが、そこは1階と2階が店になってて、地下は我々バイトクルーの休憩所と物置になってました。そのビルは何十年か前に閉鎖されたデパートを買い取ったもので、店として使っている場所の他はゴミや残骸が放置されていたりして、正直気持ちのいい所ではありませんでした。
あの日はシフトの都合で私は一人で休憩となりました。夕食の吉牛を買って、地下の休憩所で食べていました。この休憩所は昔は食料品売場だったそうですが、今は店などは取り払われ、隅の方に瓦礫が積まれていました。だだっ広い地下の元食品売場は、自分たちが使う一角以外は蛍光灯も取り払われていました。以前からクルー仲間から「ここは出る」とか「××が辞めたのは見ちゃったからだ」と聞かされていました。一人きりでそんな所にいるのは正直気持ち悪かったのですが、まだそれほど夜も遅くなかったので平気だろうと自分に言い聞かせ、あとはあまり考えないようにしていたのです。
牛丼を食べ終えて一服しようとした時でした。遠くでカツーンと何かが倒れる様な音がしました。イヤな感じがして、奥の方を見ました。「~ケテ~」と、子供の声が聞こえました。これはヤバいと思い、一階の店に戻ろうとして椅子から立ち上がりました。その瞬間バーンと鉄扉を叩くような音がして金縛りの様になってしまい、動けなくなってしまったのです。
秋だというのに汗が流れ落ちるのが分かり、声だけが切れぎれに聞こえてきました。
「~ケテ~~ケテ~~ケテ~~ケテ~…」
そしてフッと声が聞こえなくなり、突然背筋にもの凄い悪寒が走るとバンバンバンバン!という鉄扉を叩く音と共に
「開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!開けてー!」
子供の叫び声がすぐ後ろで聞こえたのです。その瞬間金縛りが解け、もう後も見ずに店へと逃げ戻りました。逃げている間も扉を叩く音と声は響き続けていた様な気がします。
階段を駆け上がり店に戻ると、私の異状に気付いた他のクルーが寄ってきました。
口々に「どうした!」とか「出たのか」と聞いてきました。ですが荒い息も整わないうちに社員の店員がやって来て、私を事務所へと連れていき、色々と話を聞かせました。
曰く、昔デパートの食料品売場だった時に冷凍庫に子供が閉じこめられる事故はあった。でももうすぐ本社の社員が上の階に入ってきたり、地下にもテナントが入る予定だから余計な事は言わないように、と。そのバイトはそれからしばらく続けました。今でも時々あの地下の休憩所と、子供の悲痛な叫び声を夢にみる事があります。