高校のとき、市内で当時まだ行ったことのない港湾地域を自転車で散策した。夕方も過ぎ、日もそろそろ落ちようというところ。港湾地区の一つ一つの道の直線距離は長いのだが、両脇を5mほどのコンクリの壁に挟まれ入り組んだ経路になっているため、適当に奥へ奥へ行くほどに自分の位置が分からなくなった。自分の向いている方角も分からなくなった。初めはそれが楽しくもあった。
街灯がないので周りがみるみる闇に囲まれてきた。知覚できるものが海風の音だけになった。
「早く帰らねば!」
少し焦った私は半ばやけになって、真っ暗闇のなかで方角不明なので帰りの道筋もわからないまま、自転車を立ちこぎし、猛スピードで走り始めた。どのくらいシャカリキにこぎ続けたろうか…まったくどこを走っているのか分からない。次第に足が疲労で引きつってくる。
「もう限界だ…ハァハァ」
力いっぱい急ブレーキを掛け、その場で倒れるように自転車から降りた。自分の呼吸と激しい鼓動から回復しようとその場にへたりこんだ。あたり一面真っ暗。やがて、ひたひたと優しい音がするのに気付いた。
私は足元を見ていた。動機が次第に収まり、闇にも目が慣れてきた。私は私の足元が時折キラキラ光ることに気が付いた。なんと、私のつま先の1cm先は海面であった。港の突出したその端に来ていたのだ。守護霊というものなのだろうか、感謝の先もわからなかったが、感謝した。
奇妙な偶然と言うか、父親にも同じような話があります。
紀伊半島の山脈の中を独りで縦走していた時、日も暮れ真っ暗になった山中を懐中電灯一本でひたすら寝場所を探して長い間彷徨ってたそうな。それまで、ずーっと正面ばかりを照らして歩いていたらしいのだが…ふと…何気に足元を照らすと断崖絶壁になっていて、あと一歩で谷底まで落ちるところだったらしい。やはりこれも守護霊の知らせだろうか…
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タイトルなんて読むの?