ひとりで山を歩いている男がいた。
夕闇が迫り、自然と足早になる。
木が風に揺れ、ざわざわと音をたてた。
びゅうっと風が通り抜けた。
男は奇妙な感覚に襲われた。
誰かが、自分を見つめている。
それも大勢の誰かが、息を殺して。
急に寒けを覚えて立ち止まる。
ふと後ろを振り返ると、女の子が立っていた。
「おめは死にびとか?」
女の子は不思議そうに訊く。
逃げ出したい気持ちを抑えて首を振った。
「こっち」
女の子に手を引かれ、けもの道を夢中で走った。
ハッと我に帰ると山道の入り口で、
一輪の花を持って立っていた。