釣り上げた手

友達と防波堤で釣りをしてたんだけど、友達の一人がトランクスを釣り上げて、
みんなで「おまえ漫画かよ」とか大笑いしてた。

それから結構してから、今度は俺がゴム手袋を釣り上げて、
「こんどは手袋だよ」とかまた笑った。

ところが、その手袋には爪が生えてて、赤いマニュキアまで塗ってあった。
それはゴム手袋なんかじゃなかったんだ。
もうぶよぶよした人間の手首だったんで、みんなで驚いたのだけど、
まだ携帯とか無い時代だったので、すぐに警察に電話もできず、
海に捨てちゃうわけにもいかず、とりあえずクーラーボックスに入れておきました。

帰り際にでも警察に届けよう、という話にもなったんだけど、
結局みんな落ち着かずに、警察に行くことにしました
車の持ち主が「車にそれを乗せるはいやだ」と言い出したので、
クーラーボックスはそこに置いたままで、とりあえず皆で交番を探しに車でいきました。

交番は10分もしないくらいで見つかり、おまわりと話をしました。
じきにパトカーがきて、そのパトカーをひきつれて釣り場に戻った。

そのときにクーラーボックスは、堤防のへりから1mくらい?のとこに置いてあった。
堤防から海面までは3mはあったんだけど、おそろしいものを見てしまったんだ。

ぶよぶよってゆうかヌメヌメした感じの女が、海から堤防に這い上がってきて、クーラーボックスに手を伸ばしてた。
俺は思わず「わー」と声を出してしまったが、おまわりの一人も見たようで同じように驚いてた。
女は一瞬で消えてしまったけど、それは気のせいとかではなかった。
その証拠に、おまわりの一人も見ていたし、その部分に水が残っていた。
もう一人のおまわりや俺の友達は、見えなかったようだけど。

俺たちが嘘を言ってるとは思わないみたいだけど、でも信じ難い、みたいな感じで微妙な空気だった。
もう一人のおまわりは、まったく信じてないようだった。
見ちゃったほうのおまわりはかなりてんぱってて、俺も余計に怖くなった。

見てないほうのおまわりがクーラーを開けて、「うわっ」と言った。
クーラーの中の手首が、中の魚(どんこって言う奴)をぎゅっと握りつぶしてたんだ。

俺たちがいたずらでやったみたいにさんざん疑われたけど、
そんな事するわけないし、見たほうのおまわりが説得してくれて、
俺たちはちゃんとした警察署に行って、事情を詳しく聞かれることになった。

手首自体はバラバラ殺人の被害者で、ちゃんとした物体(霊ではない)で、
犯人もしばらくして逮捕されて、事件としては解決したようだった。

手首がどうやって魚を握ってたのかは、俺たちが説明を受けることはなかったので謎。
ただ、俺じゃなくて俺の友達に、このあと色々おこります。

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