釣りをしてはいけないという、伝えの残る沢での話。
そこで釣りをした叔父いわく、そこほど岩魚がたやすく釣れる場所は無いという。
えさをつけて投げ入れるだけで必ず釣れる。
しかし、そこほど恐ろしい場所も無いという。
向かいの川辺から、何人もの獣じみた目をした白い顔がこちらを見ているのだという。
気にしない振りをして釣りを続ける。
家路につくころには、白い顔は殺気をあらわにして、いよいよ獣じみてくる。
さてそろそろかと思い、叔父は家路に着くという。
恐ろしいことはないのかと叔父に尋ねると、叔父いわく、
「恐ろしいが、白い顔の連中が、里の近くまでついて来るだけだ。なんの悪さも祟りも無い」
叔父は今でもそこに通っているが、今ではあまり白い顔の人たちは見ないという。