20年位前の話。僕の恩師は田舎の校長先生だった。昔は組合の活動家で、マルクス一本槍だったが、そのうちに管理職に昇進し校長になった。曲がりなりにもマルキストであったから、心霊なんて信じない・・・ハズであった。
あるとき遊びに行ったら、アルバムに挟んである大きな写真を見せられた。
「実はなあ、これを良く見てみろ」
渡されて見てみると、卒業アルバムによくある校長先生の写真。本人が机に座ってニコニコして写っている。が、よく見ると右の肩に大きな手が‥‥‥。男の右手のようだった。無論、恩師の周りには誰もいなくて、一人で写っている。手は肩の裏側の、ちょうど首の後ろから右の肩甲骨にベタリと張り付いている。
「これなあ、去年にボツになった写真でね。撮り直しはしたんだけど、写真屋にもらってね、現像したらこうだったんだけどどうしましょうか?だってよ。」知っているのは、校長と教頭と写真屋だけだったらしい。僕もこういうのは見たのは初めてで、うーんと絶句したっきり答えようがなく、
「先生、やっぱりこういう世界ってあるんでしょうか??」
と聞いてしまって、恩師と顔を見合わせるばかりであった。
その後、先生は故人となって、あの写真の行方は判らなくなってしまった。