眼球の無い女

もう16年前の話なんだが、家の近くにある山でうずくまってる女を見たんだ。その時は、またかって思った。(不可思議なことはよく体験する)ただ、いつもと違うのは、うずくまってた女が夢に出てきたこと。その女は、夢の中でもやっぱりうずくまってるんだ。わかったのは、泣きながら何かを呟いていることだけ。あぁ、あの時見たのが夢に出てきたのか、ぐらいに思っていたんだよ。


それからは毎晩同じ夢を見るようになったんだけど、気にしなかった。ただ、気づいた時には夢は同じじゃなかった。近づいて来てるんだ。俺じゃなく、女がね。近づいたことによって、女が呟いている言葉が少しずつ聞き取れた。「…ない….えない..見えない」ってね。言葉が聞き取れたことで、初めて女の顔を覗き込んだ。そこにあったのは目の無い女。くり抜かれたかのようにすっぽりと無いんだよ。女は俺に顔を向けて見ているんだ、眼球のないまま。俺はびっくりして飛び起きた。真夏で暑がりの俺はエアコンつけてたのに、汗がびっしょりだった。

それからの夢は、女が俺の前に立ったまま俺を見ているだけ。ただその夢もずっと同じじゃなかった、笑いだしたんだ女が、ニヤっとね。そしてまた何か呟きだしたんだ、そして出た言葉は「見える、見えた」そんな夢が続いたある日、異変に気づいた。視力が極端に落ちはじめたんだ。当時、自動車学校を卒業した俺は免許センターで眼鏡が必要だと言われて驚いた。確か視力は2.0だったのに0.3まで低下していた。

最初は夢との関係なんて無いと思ってたが、さすがに目の無い女が夢で言った「見えた」俺の視力の低下は、関係ないとは思わずにいられなかった。そこで以前、実家での不可思議な現象をみていただいた知り合いの婆ちゃんに相談することにした。 知り合いの婆ちゃんは所謂霊能者なんだ。しかもお金は一切貰わずにいることが信用出来る(今でもメディアにでる奴は信用出来ない)と思っていたんだ。婆ちゃんの家に行ったら、まず最初に言われたのは「また厄介なのを連れてきたね」だった。

婆ちゃんは俺を心配させない為なのか、にこやかに笑った。「すぐに消えるから心配しなくていいよ」と、うちの墓がある寺に連れていかれた。住職は婆ちゃんから話があったのだと思うが「早速始めよう」と本堂に連れていかれた。本堂で婆ちゃんが「なにもせずに目をつぶってなさい」と告げ肩を抱いてくれ、住職が念仏を唱えていた。しばらくすると本堂の空気が重くなってきた、あきらかに重いんだ。

そして、本堂の畳みをズルッズルッと足音が聞こえた。周りを回りながら様子を伺っているのか、目をつぶっている俺にはわからない。わかるのは、明らかに重い空気と女の足音のみ。婆ちゃんが「もうすぐだからね辛抱しな」の言葉が救いだった。そして俺の肩を抱く婆ちゃんの力が強くなったと同時に、うめき声が聞こえた。「ぐぅっ..うぅっ」ってね。そして、最後に耳元で「あと少しだったのに」と聞こえた。婆ちゃんの力が抜け、住職の念仏も終わった。

婆ちゃんが「よう我慢したな」と優しい笑顔で言ってくれた。婆ちゃんが言うには、女は目をくり抜かれ殺されたんだろうと。そして、あんたの目を奪おうとしたんだねと。でも恨んだらダメ、すべて人がやった結果だからと。今でも婆ちゃんの言葉は心に残っている。死んだ人間の恨みを生むのは人間だということをね。俺の話はこんなところです。

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