無人バスの怪異

会社帰りのバスでの出来事。私は乗車中にウォークマンを聴いているとそのまま寝てしまい、降車するバス停を乗り過ごしてしまうことがある。その日も起きているつもりだったのだが、いつの間にか寝てしまった。


唐突に、まるで人に起こされるかのようにガバッっととび起きた。金縛り状態から無理矢理脱出するようなあの感じ。瞬間我に返り、あ!また乗り過ごしたか?って思ったら、幸い まだ降りるバス停の2つ手前だった。次のバス停では、けっこう人が降りていく。私は、その背中をボンヤリ眺めながら、ああ次降りなきゃって眠いのを我慢していた。

バスが走り出した途端、真後ろの席で女性(声の様子で)が喋りだした。「・・で・・・おねがい・・ね・・でね・・・ね・・おねがいしますね・・ね・」携帯か・・って思った。私は携帯のお喋りが聞こえるのがあまり好きではない。

ただ私の住んでいるところは東京の田舎だから、バス停からさらに遠い人は、降りるバス停が近づくと携帯で家に迎えの要請をすることが多い。次が降りるバス停だから、私は降車ブザーが押されるのを待った。いつも降車ブザーを自分で押さないタチなのだ。でも誰も降りないらしく、いっこうにブザーが鳴らない。後ろの女性は相変わらず喋っている。声のトーンはますます下がり何を言っているかはわからない。私は少しだけムッとしていた。

仕方がないので自分で降車ブザーを押そうと手を伸ばしたその瞬間、ハッキリと「お前にだよ」と言って声が止んだ・・・・。ん?と思って振返ると、乗客は私だけだった。

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