これは昔のお話。
そのまちには大きなお墓があったそうだ。そしてそのお墓に、夜になると化け物が出るというウワサがあり、だれも近づこうとはしなかった。
「化け物なんているものか!ほんとうに出るのか、オレがたしかめてやろう」
まちでも怖いもの知らずな八兵衛は、みんなが止めるのを聞かずに、夜になるとそのお墓に行ってしまった。
お墓はまっ暗で、ちょうちんの光がてらすところしか見えない。しかしうわさに聞くような化け物は出てこず、八兵衛はまったく怖くなかった。
「ふん、やっぱりだだのウワサだったな。みんな怖がりだから、夜のお墓が怖いだけだったんだろう。」
みんなが来れない夜のお墓にきた八兵衛は、まちに帰ったらみんなに自慢してやろうと思っていた。そろそろ帰ろうかと思って八兵衛が引き返そうとすると、なにやら後ろでガサガサ音がしはじめた。
「なんだ、犬でもいるのか」
八兵衛がちょうちんをむけると、そこには…顔には黒い目玉が3つあり、口は耳まで裂けてするどい牙が出ている。背はいままで見たどんな男よりも大きく、全身に毛が生えた化け物がいた。
「で、でたぁ~化け物だぁ~!!」
八兵衛は急いで逃げ出し、近くにあったお寺へと逃げ込んだ。
その寺には、ちょうどお坊さんがいた。
「た、助けてくれ~!化け物がでた~!」
あわてて走ってくる八兵衛をみて、これはただ事ではないと感じたお坊さんは
「これは大変だ!急いでこの箱の中へ隠れていなさい!」
と言って、お寺にあった人が入れる大きさの箱に八兵衛を隠し、目をつぶってお経を唱え始めた。
しばらくするとお寺の扉がガタガタ音をたたて、化け物がやってきた。お坊さんはひたすらお経を唱えて、怖くて目も開けられずにいた。
「クンクン、クンクン」
どうやら臭いをかいで、お寺の中を探してるようだ。すると今度は
「ガタガタ、バキバキッ…」
と、何かが壊れる音がしはじめた。そしてまたしばらくすると
「クチャクチャ…ポリポリ…」
何かを食べているような音が聞こえてきた。
お坊さんは怖くて逃げだしたい気持ちを我慢しながら、ひたすらお経を唱えていた。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」
どのくらいたっただろうか…。いつの間にか化け物の気配は消えていた。
「八兵衛、大丈夫か?!化け物はいなくなったぞ!」
お坊さんは急いで八兵衛を隠した箱に近づき、中を開けてみた。
「ひぃぁ~~!!!」
箱の中に入っていたはずの八兵衛は、もう骨だけになっていた。そしてそれ以来、そのまちでは夜のお墓に行こうとする怖いもの知らずな者はいなくなったのだそうだ。