墓場に魅かれる

学生時代、一人で山に行き、適当な場所で勝手にテントを張った。
近くにはキャンプ場があり、悪い事ながら、こそこそと水など汲むには丁度良い。

ふと散歩を思い立ち、川にかかる橋を渡ると、
地面が締まった平坦な場所に出たが、そこはかなり古い墓地だった。
鎌倉時代を思わせる石塔を眺めるうち、その墓地にテントを張りたくなってしまった。
墓地での露営など考えたくもないし、気色悪いという思いは無論あった。

テントを張った場所に戻る頃には雨が降り始め、さきほどの巨木に囲まれた平坦な地面が、どうにも恋しい。
テントを大雑把にたたみ、その墓地に向かおうとした瞬間、ふと思った。
なぜ墓地で一夜を明かしたいんだ?
なぜそんな気持になったんだ?

恐怖とは違う不思議な感情に捉えられ、下山を決意した。
すでにバスは無い。
夜の雨の中、麓まで歩けば3時間はかかるだろう。
それでも俺は麓を目指して歩き始め、最後はほとんど走り出さんばかりになっていた。

なぜあの時に限って、墓地で露営したくなったのか。
怖いというより不思議な感じだ。

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