父方の祖父(故人)から聞いた話。
むかし、むかしのことじゃ。わしのじいさまのじいさまが山の夜道を、馬を引きながらタバコをぷかぷか葺きながら歩いておった。じいさまは町へ定期的に野菜やらを売りにいっておってな、その帰り道じゃったんじゃ。その晩、月は綺麗に見えるのに空気は何だか生ぬるかったそうな。
「すっかり遅くなっちしもうた…はよ帰りてぇのぅ」
それでなくともこの山には、いつの頃からか化生の物(化け物)が出るとの噂がある。無理せず、町で一泊していけば良かった…とじいさまが考えていた矢先。
「これ、どうしたんじゃ」
急に馬が動かなくなってしもうたそうじゃ。叩いても押しても引いてもダメで、まるでその先から一歩も進みたくないようにがんとして動かんかったそうな。すると、急に肌寒い風が吹いて……気が付くと、目の前に見たこともない美人が立っておった。
「(たまげた…こんな夜更けに、若いおなごがどうしたんじゃろうか…)」
立派な着物や綺麗な簪も目立つが、何よりそのおなごの目ん玉に驚いた。まるで金物の様にギラギラと光輝いておったんじゃ…。
「(こ、この娘はまさか、山に住む…!?)」
化生の物かもしれん。今にとって食われてしまう…と思っておったじいさまじゃが、娘はじいさまが口に加えておったタバコを見るや、しげみの中に逃げてそれっきりじゃった。
「(た、助かったわい…ありゃあ、きっと蛇の化生じゃあ。蛇は火が嫌いじゃけんのぅ…タバコの火が消える前に、はよ山を降りな!)」
こうしてじいさまは一命をとりとめた。あとで峠の茶屋の婆様に聞いたところ、あれはじいさまの考え通り、山の主の大蛇だったんと。あれに会って助かったもんは滅多におらん、お前さんは運がいい…とのことじゃあ。お前も、夜道で美人におうた時は気を付けるんじゃで。タバコに火ぃつけてやり過ごすことじゃ…。
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おもんないんじゃボケ死ね