ちょいと体験談を投下。幽霊を見た事が無い俺の幼少期から続く怖いと言うか奇妙な話。
“それ”を意識しだしたのは数年前。親父が無理して購入したマイホームに引っ越した年。その日は土曜で、両親は週に一度の食料+生活用品の買出し。兄貴は土曜出勤で会社。家に残ってた俺と弟は俺の部屋で何かの格ゲーで対戦に熱中してた。弟は負けが込むと無口になる。既に64連勝の記録を樹立してた俺は良い気になってキャラの性能とか対戦の相性とか技の性能について弟に小賢しく語ってた。“空気読め”と言わんばかりに、「あー」、「んー」と生返事ばかりの弟になお話しかけようとしたその時、とん。部屋のドアの向こう側で唐突に足音が鳴った。
兄貴がまだノロノロ身支度整えてたか、と一瞬思ったが、ヤツは俺が寝惚け眼で朝飯喰ってる時に出勤したんだから家にいるわけが無い。とんとんとん。足音の主は廊下を進み、俺の部屋に隣接した階段を降り、折り返しの踊り場で止まった。はい? 誰?キャラセレクト画面のままコントローラーを置き、部屋を出て、階段を覗き込む。この間、俺が鳴らした音以外は一切耳にしていない。階段には誰もいなかった。一階へ降りてトイレ、リビング、和室、バスルーム、全て確認した。誰もいない。足音を忍ばせて玄関から出るにしても、玄関のドアにはクソやかましいドアベルが付いてる。俺に気付かれずに出れる訳が無い。この時点で疑ったのは俺の耳。間違っても“幽霊ですか?”なんて疑問は持たない。良く晴れた土曜日の午前中から化けて出る幽霊なんて、それはもう幽霊じゃない。部屋に戻ると不機嫌を顔面全部で表現した弟が“早くキャラ選べよ”とせっつく。ああ、とコントローラーで適当にキャラ選びつつ、安心したくて弟に聞いた。
「…さっきさ、ドアの前で足音聞こえた気がしたけど気のせ」
「したよ」
人の顔もみないで弟がむっつり答える。
「…階段降りる途中で足音消えたよな?」
「消えたな」
「ドアを開ける音、聞こえなかったよな?」
「聞こえてないな」
「…家にいるの、俺とおまえの2人だけだよな?」
「だな」
「…どゆこと?」
「別に気にする事ねーだろ。“足音”だけなんだし。実害ねーよ」恐怖はなかったが、やはり混乱してたのか弟さんの仰る意味を理解するのはそれから随分経ってから。
「つーか。ボーっと突っ立ってないでちゃんとやれよ」
“ちゃんと出来る訳ねーだろ、この状況下で”と思いつつ連勝記録は65に伸びた。この奇妙な足音と数年に渡って付き合う羽目になるとは露とも思わなかった夏のある日の出来事。