その頃、私は海岸近くの住宅工事を請け負ってました。季節は7月初旬で、昼休みには海岸で弁当を食うのが日課でした。初めは一人で食べに行ってましたが、途中から、仲良くなった同年代の下請け職人も誘って、一緒に食べに行くようになりました。
いつものように海岸に行くと、普段は人気の無い海岸ですが、その日は10~12歳位の子供が4人程、波打ち際で遊んでました。ちなみにココの海は遊泳禁止となってはいましたが、私も子供の頃は、ココで仲間と泳いだりした事もあったので、特に気にもしませんでした。その日も海岸で弁当を食おうかと思っていたら、A君が「今日は日差しが強くて暑いから、現場内の日陰で食おうぜ」と言って来たので、まぁ確かにその日は特に陽射しが強くて、外で食うには暑すぎると思って、その場を去りました。
現場内の日陰で弁当を食べていると、何やら外が騒がしい。パトカーやヘリが飛んでる音も聞こえる。何だろか?と思って、外を見に行こうとAを誘いました。「あ~俺は辞めとく」私は外が気になって仕方が無いので、Aは置いて、他の職人さん達と一緒に野次馬に行きました。
どうやら人だかりが出来ているのは、いつも私がAと飯を食っていた海岸でした。既に集まっていた野次馬に話しを聞いてみると、海で遊んでいた子供が一人、波に飲まれて行方不明だと。確かに、さっきまで海岸で遊んでいた子供の数が、一人減っていました。私は後悔しました。何時も通りこの海岸で弁当を食べていれば、波に飲まれた子供をいち早く発見できたし、泳ぎにも自信がありましたので、もしかしたら助ける事も出来たのではないかと。
少し後ろめたい気分になって、Aの所まで戻り、Aに海岸での事を話しました。「今日もあそこで飯食ってたら、俺らが何か出来たかもしれないよな」と私が言うと、Aが「ははは、無理だって。だから俺は、今日あそこで飯食うの嫌だったんよ」。
私は意味が解らなかったので、Aに詳しく話を聞いてみると、「あそこって遊泳禁止なだけあって、色々とある訳で、こんな事言うからって変な目で見ないで欲しいんだけど、色々とある訳よ。お前はソッチ系には疎いみたいだから、言わないでおいたんだけど、現場の中で弁当喰った方が涼しいのに、何でお前は毎日海岸で弁当食べたがったの?」
「そりゃ、海見ながら外で飯喰った方が美味いと思って・・・」
「その割にはお前は、毎日暑い暑い言いながら弁当喰って、弁当喰い終わったらスグに事務所戻って涼んでただろ?」
そう言われると確かに、海岸で弁当喰い始めたキッカケは、海見ながら食べた方が気持ち良いと思ったのですが、2日目以降は、何であんなに日陰も無いクソ暑い場所で、弁当を食い続けてたのか、我ながら不思議に思いました。
「”あいつ等”の狙いは初めからお前で、ず~っとお前は、”あいつ等”に呼ばれてたんだよ」
「???」
Aは初めて現場で私に会った時も、私が海にいる”あいつ等”から誘われてるのを感じていたらしい。とは言っても、そんな事を初対面、しかも元請の監督に真顔で話しても馬鹿にされるし、下手したら追い出されるだけなので、毎日弁当に付き合って監視してたらしい。Aは私が”あいつ等”に誘われてるのは分かっていたけど、中々その”あいつ等”の姿をAも見ることは出来なかった。どうやら霊?の方は、一方的に私に意識チャンネルみたいな物を合わせ、もっと波際まで引き寄せたがっているらしかったのですが、肝心の私が鈍すぎて手こずってたらしい。
「だから”あいつ等”は、お前の目の前で、子供を海に引き込もうとした訳だ。”あいつ等”からしたら、子供の方が頭が固いお前と違って誘い易いしな。そうすれば、お前が子供を助けに、海に入ってくる事を知ってたんだなぁ。”あいつ等”は。まぁ俺が邪魔したから、子供が身代わりになっちゃった訳だけど・・・。今日は、”あいつ等”とピッタリ波長が合う子供が遊びに来たせいか、今日は俺の目にも、ハッキリ”あいつ等”が見えたよ。俺がお前を海岸から連れ戻した時の奴らの雰囲気は、俺もちょっと怖かったよ。本命のお前を連れ戻されて怒ったのかなw」と、Aが笑いながら話してくれました。
って・・・そこまで分かってて、何で遊んでた子供を放置したのかとAに問いただすと、「お前は誘われてるクセに何も感じないから、そんな事言えるんだよ。子供等が遊んでた場所は、完全に”あいつ等”の領域入ってたし、お前だってアレが見えるなら絶対近づけないし、関わり持とうなんて思えないって。お前を海岸から現場内に連れ戻しただけでも、俺って勇気あるな、エライな~て思ったよ。本当凄かったよ、奴らの恨めしいそうな顔」
Aが言うには、見えない感じない人は、無意識に誘われてる事があると言ってました。また、誘われてる事にも気が付かないらしい。だから逆に、見える感じる人は、危ない場所には下手に近づかないらしい。
「お前だって、道路で子供が、刃物持ってる男に追いかけられてたら、身を挺して阻止できるか?普通出来ないよな。それは、関わった後の面倒を知ってるからだ。それと一緒で、俺も見えたからって、人助けするほどお人良しじゃ無い。相手が人間なら通報する事はできるだろうけど、相手がこの世の者じゃなかったら、K察も相手してくれないし。まぁ面倒事に巻き込まれるのは御免だよ。でも〇〇君(私の名前)とは気が合ったし、知らん顔して何かあっても気分悪いからね」
この水難事故は、夕方のニュースでもチラッと流れました。私は夜中に気になって、海岸まで車で見に行きました。まだヘリは海岸沿いを飛び回り、沢山の人が灯りを持って海岸を捜索してました。自分では「お人良しじゃない」と言っていたAでしたが、彼は去年の秋に、川で溺れてる子供を助けて、自分だけ逝ってしまいました。2度目は見て見ぬフリは出来なかったのかな・・・。