小さい時は親が共働きで、一人で留守番をする事がよくあった。特に小学校の夏休みなど、日中は大体一人で家に居た。小学4年生の夏休みの事だ。トイレに行って居間へ戻ったら、知らないお爺さんが座って勝手に麦茶を飲んでいた。「誰?」と聞いても答えない。ちょっと怖いから自分の部屋で漫画を読み、暫くしてから戻ったら、もう居なかった。
それから何日かに一回というペースで来た。トイレに行ったりテレビに夢中でいたら、いつの間にか部屋に居る。そして勝手にお茶を飲んでいる。慣れてくると全然怖くはなく、何となく居るのが当たり前になった。ある日、また来て勝手にお茶を飲んだ後、いきなり「お前、何か願い事あるか」と言われた。「お母さんに家に居て欲しい」と答えたら、「そうか」と言って消えた。
その日の夜、帰宅した父は「父さん偉くなったぞ!」と私たち家族に報告した。当時はよく解らなかったが、父はこの日、異例の昇進が決まって給料も跳ね上がった。その後、秋になって母の妊娠が発覚し、父の収入も増えたからと、母は退職して専業主婦になった。
ぬらりひょんという妖怪を知ったのはかなり後になってからだったが、あれはもしかしてぬらりひょんだったのだろうか。でも、ぬらりひょんは願い事を叶える妖怪じゃないみたいだしなあ……とも思う。何者にせよ、良い奴だったんだと思うけど。