ある早番の日、同じく早番だった職場の先輩と、仕事上がりに飲み屋に寄った。K氏も先輩も酒好きだったので、日が変わる前に店を出て、先輩の家で本格的に飲もうとなった。先輩氏のアパートは創成川という川沿いにあり、すすきのから歩いて程近い距離だったので、二人で川沿いを歩くことになった。アパートが近づき、繁華街から離れて辺りも静かになってきた頃、二人の後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、野球帽をかぶった少年が二人の後ろを歩いていた。少年はうつむいたまま、無言で歩いていたそうだ。時間も時間なのでどうしたのかと思いつつ、またアパートに向けて歩き出した。少年もまた二人の後をついてきた。K氏が言うには、その時にはもう二人とも、後ろを歩いている少年が生きていないことを直感的に理解していたそうだ。特に確証があったわけではないが、既に周りの空気がおかしかったと言う。このまま放っておいたらアパートまでついてくるのではないかと思ったので、二人で目配せしてその場で立ち止まった。後ろの少年も立ち止まった。
不自然なくらい周囲に人通りはなく、夜道に3人だけだったとK氏は言う。二言三言声をかけたが、少年はただうつむいて立っているだけだった。「どうせ相手は人間じゃないし、遠慮することは無いと思った。酒も入っていたし」とはK氏の弁。K氏は、少年の野球帽を取り上げてみた。野球帽の下には、目玉の無い顔があった。
「それでどうしたんですか」と聞くと、
「とにかく走って逃げた。びっくりしたからね」
そうK氏は答えた。どのように見えたのか尋ねると、
「生きてる人間とおんなじ。触れるし、いるなってのがはっきりわかる。独特の気配はあるけど、それは口ではいえない」という答えが帰ってきた。
後日。偶然高校時代の友人と再会し、二人で飲み屋に行って焼き鳥を齧っていたら、なぜか怪談話になった。
「とっておきの話がある。去年俺が見た話だ」と言うので聞いていたら、場所も状況もK氏の話とそっくりである。
「後ろから足音が」と彼が言ったところで、
「野球帽の子供だろう?」と聞くと
「ちがうよ、幼稚園の制服着た女の子だ。泣いてたんだよ」との答えが帰って来た。
「人通りの無いところで、そいつの顔見たんじゃないか?顔はどうだった?」
「血まみれ」
K氏の話を聞いてから後、同じ場所同じ状況の話を3件聞いた。皆状況はほぼ同じだが、出てくるものが違っていた。K氏は野球帽の少年、友人は幼稚園児、もう一件は小学生くらいの女の子。いずれも男の二人連れが、流血した重症の子供を見ているらしい。近所の土を掘り返してみたら、子供の死体が何体も出てきて、犯人は二人連れの男。いつかそんな事になるのではないかと思いつつ、思い出すたびに地方紙をチェックしている。