私は四国の田舎の村出身ですので、幼小中と同じ地区の子供が集まり、殆ど面子が変わることはありません。これは20年近く前、私が中学生だった頃聞いた話で、事件の1年後くらいに本人に確認を取っています。
私の2つ下にAという男の子がいた。Aは取り立てて変わったところも無い、普通の男の子だった。ある8月(夏休み)の夕方、夕食までの間Aは家で昼寝のような感じで眠っていた。そのうち、Aはおもむろに目が覚め、帽子を被って懐中電灯を片手に庭先へ出た。この時のAの意識は半分寝ぼけた状態で、何故目が覚めたかは判らないとのことだ。Aが庭先に出て行ったことに家族の一人が気づいたが、ちょっと出ただけだろうと気にも留めなかった。
家族の人の証言では、時刻は午前7時頃とのことらしい。Aが庭先に出ると、6人の「人」がそこに立っていた。性別・年齢・容姿など一切Aは憶えていないのだが、6人の「人」だと思ったそうだ。6人はAを認めると、Aの家がある山の方へ歩き始めた。Aは寝ぼけた状態にも関わらず、また見もしらずの人のはずなのに何の恐怖も感じず、寧ろ『ああ、付いて行かないといけないんだな』と思い、吸い込まれるように彼らに付いて行った。
裏の山といっても、結構標高はある。6人はAを囲むようにして歩いて行った。いつの間にか周囲は真っ暗だ。そしてAを囲む6人も、もはや人ではなく、周りに付きまとう気配のようなものになっていた。Aは、意識の上ではもはや「人」でないことを完全に理解していたが、別段恐怖心を感じる事もなく歩みを進めて行く。まだ寝ぼけた状態が続いていたのだ。周りの「気配」は何やらずっと「ヒソヒソ、ボソボソ」と喋っていたのだが、その内容までは聞き取れず、そのまま歩き続けていた。
そのうち、「コン」と懐中電灯に虫が当たった。光につれられた虫のようだ。その刹那、周りにいた6人は一瞬にして消え去り、声も聞こえなくなった。ここでAはハッと正気に戻った。周りを見渡すと、来た事も無い山奥の道をただ一人でいる。光と言えば、自分の懐中電灯の灯りだけだ。突如猛烈な恐怖に襲われたAは一目散に家へと走り帰った。Aを探す家族の人に出会い、安全を感じたのは夜中の0時少し前だった。
後に太夫(いざなぎ流の祭司)がAの家族に言ったことには、その6人は「7人ミサキ」に引っ張られた者達で、Aを7人目として迎えに来たのだという。そして0時までに帰れなかったら、死んでいただろうと言った。しかし、Aのおばあさんが毎日熱心に神棚を拝んでいたので、そのおかげで神様が「虫」を使って助けてくれたのだと。
確かに私とAの住む地域では、昔男に捨てられた女が身投げして「7人ミサキ」となったと言われる場所がある。身投げ後、立て続けに男ばかりが死んだので(転落死・凍死等)太夫に祓ってもらったのだが、「強すぎて私の力では落とせない」とサジを投げられてしまっていた場所だ。しかしその女性が身を投げたのは昔の事だし、かなりの人が死んだとの事なので私達は「7人死んでるだろう」とすっかり安心してそこで泳いだりしていた。結局、「何故『A』を迎えに来たのか」という事は判らずじまいであった。
Aはその後、怪奇現象に遭うこともなく現在に至っている。当時の私は『いつか自分の所に迎えに来るのでは…』と思うと非常な恐怖を感じていたものだった。