私がまだ花の女子大生だった頃のお話です。私の学科用の校舎は新設されたばかりでまだぴかぴか。最上階には視聴覚設備用の特別教室があり、その上にパイプスペース用の小部屋だけがある階がありました。というより、階段がその階分だけ上に突き出してて、階段にへばりつくように小部屋があるという感じです。私と友達は、施錠されてないのを良いことに、よくその小部屋に入り浸っていました。荷物を置いたり更衣室にしたり、空き時間にただ雑魚寝してたり…(女子大の実態なんてこんなもの)。
その部屋には、押し上げ式の窓がひとつだけあり、夏の暑い日のことだったので、私はその窓をできるだけ開け、首を突き出して涼んでいました。すると、視界の隅っこを何かがよぎりました。なぜか「あれ? 女の子だ?」と思いました。黄色のゴムまりを持った『トイレの花子さん』みたいなオカッパで、白ブラウスに赤い吊スカートの。ちらっと見えただけだったのですが…。首をひっこめて「ねえ、子供が遊んでる。こんな暑いのに元気だよね」と友達に声をかけると、怪訝な顔をされました。それでハッと気づきました。こんな場所で遊んでいて落っこちでもしたら大変です。慌ててもう一度首を突き出してみたら…。
いません。見渡す限り、子供なんていません。眼下は切り立った校舎の壁で、落っこちたら死にますってくらいの高さとコンクリです。学校自体が山の中腹に建っていたので、実質5階に相当する階なのに、1階下くらいの高さのお向かいさんには山の地面があります。校舎と山の間は…5メートルくらい離れていたでしょうか…。
山の中はゴルフ場。手前は校舎で切り立った崖状態。住宅地ならいざ知らず、こんなところに子供が迷い込んで来られるはずはありません。大体、夏真っ盛りに長袖に白ブラウスを着てたということもおかしいです。そこで初めて、ゾッとしました。
「私、一体何を見たの?」
いわく因縁後日談、何もありません。私の見間違いかもしれません。でも、私は絶対に見た…と思うんだけどなぁ…。