得体の知れないものが身体に寄生している友人が子供を産んだ【巣くうもの】

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。またこれの続きの話が新しく舞い込んで来ました。

以下はこれまでの状況説明になります。
・「視える人」な女友達Aが言うには、Bの身体を出入りしている何か=普通の霊と違うモノが居る(寄生虫のようなモノらしい)。
・B本人は気付いていないが、霊的なものは大抵それを避けるから、Bは心霊体験が出来ない。
・取り敢えず当時のAが知る限り、ソレはBを守っていた。
・でもAが感じる気配では、とても善意の守護ではない。と言うか悪い感じらしい。
・強力な霊とBの何かが戦う時には、B本人は爆睡する(Aの推測)。

Aがもう一人の学生時代の友人Fに誘われ、二人でB宅を訪問して来たそうです。「何か」が今も居るのか、そして何よりBの子供は普通なのかどうかが知りたかったと。帰って来た後の話を聞くと、「……行くんじゃなかった……」と言っていましたが。

Aによると、Bは郊外のやや長閑なところに住んでいて、喜んで迎えてくれたそうです。休日だったので、B夫と子供も居て挨拶したと言っていました。そして結論から言って、やはり「何か」はBの中に居たそうです。……しかもA曰く、「育ってた」と。大きくなっていたと言うか強くなっていたと言うか、ハッキリしてきていたと言うか…。
「やっぱり形とか顔とか、そういう輪郭は見えないんだけどね。霧だとしたら『濃くなってた』、人影だとしたら『立体的になってた』って感じで。気配も強くなってて、撒き散らす臭いというか放射能みたいなものが増えてた感じで、正直ぞっとした」

また、AとFが最寄り駅に降りた時から、街そのものから酷く嫌な感じが漂っていたそうです。「視える人」ではないFさえも落ち着かない様子で、「……何だか変わった感じするとこだね。子供が多い割に静かだからかな? 少し早いけど、お店に入るよりBの家に行かない?」と言う程だったそうです。AはBの家に向かう間の短い道すがらに、霊的に酷く悪い状態のものを驚くほど大量に見たそうです。酷い死に方をして浮かばれないものだと一目で分かるものや、性質の良くない動物霊などが、もうウヨウヨしていたと。正味の霊だけではなく怨念じみた空気の塊みたいなものや、物凄く古そうな嫌な気配、得体の知れないモノが寄って来たりして、本気で怖かったそうです。

「街が邪念に塗れてるみたいで怖かった。一人だったら引き返してたと思う。でもFに霊の話とかして変だと思われたくなかったし、もう後ろに憑いてきちゃってるのも居たみたいだったから。Bの家に行けば何とかなると思って、そのまま行った」

それで急いでB宅に着くと、その中には相変わらず何も近寄れないようでした。B宅内は、Bの背負っている『何か』の気配が充満している他は綺麗なもので、寧ろホッとしたそうです。「B夫もBの赤ちゃんも普通だったよ。ただ、そっち系について物凄く感受性が無い人だった。元から良いものも悪いものも全然感じなくて、だからどっちの影響も受けなくて、一生『こっち』の現実の世界だけと関わって生きる人が、たまに居るんだよね。Bと一緒に暮らすなら、そうでないとダメだと思う。B夫にも赤ちゃんにも、守護霊が見えなかったから。守護霊もあの家に居られなくて、居なくなったんじゃないのかな」
……守護霊が居ないって、大丈夫なんだろうか。「二人がBと居ない時は守護霊が戻って来ているのか?」とAに訊いてみましたが、そこは分からないとのことでした。

何はともあれ久しぶりに会ったので、お互いに近況報告をしたら、Bの趣味と言うか怪談好きも健在だったそうです。そこそこ新しく、立地も良く広々として立派な部屋だったのでFが誉めると、何とB宅は札付きの瑕疵物件だったらしく……。結構な頻度で住人が変わるせいで、大して古くもないのにB一家は十何番目かの住人だそうでした。中で事故や自殺が複数あり、他にも不幸があって出て行った住人がいたりして評判の部屋になってしまっていたため、家賃は破格の安値だったとか。

「不動産屋さんも案内してくれたけど、あんまり勧めて来なかったしね~。近所の人も知ってて、『本当に大丈夫? あのね、何かあったら無理に我慢しないで引っ越した方がいいよ。こんな話して悪いんだけど、その部屋、色んなことがありすぎるから……気を付けてね』って心配されちゃったよ。でも、この人(B夫)そういうの全然気にしないし、私は寧ろ幽霊がいるなら見てみたいし~」のほほんと笑いながらBは言ったそうです。

「でも結局、そういうのって話ばっかだよね。うち、もう半年住んでるけど全然何も無いよ。近所でも事故とか結構あるし、踏み切りで撥ねられちゃった子供もいたし、気を付けなきゃ危ないのは同じなんだよね。偶然この部屋の人に集中したから、呪いの部屋にされちゃったんだろうね」
……Fは「そうだよね」と頷いたそうですが、Aは顔が引き攣るのを堪えるのがやっとだった…と言っていました。

A曰く、恐らくその部屋は、本物の『呪いの部屋』だったのだという事でした。何かのきっかけで悪いものの溜まり場になってしまう場所というのがあるのだそうです。霊的な位置関係とか、近くに沼や海があるとか、その方角とか色々なことのせいで、悪いものを吸い寄せて溜め込んでしまうポイントが出来てしまうことがある、と。
「それが建物の中で気密性の高い部屋だったりすると、余計に溜まったものが出て行かなくなるの。そこに悪いものが溜まるから他の場所が綺麗でいられるということもあるから。……そこにBが住み始めたんだよね、いきなり」

それは、つまり…。Aの表現したところでは、「町中のゴキブリやムカデやスズメバチを全部集め続けてきた、害虫で一杯の小屋の真ん中で、不意に特大のバルサンを焚きまくったようなもの」とのことでした。そしてAは、こうも言っていました。
「Bのことが嫌いなんじゃないけど、二度とBの家にもあの辺りにも行かないと思う。……もっと散らばったりして落ち着いた状態になるまで、何年もかかりそうな様子だった」

Aが言うには、B夫とBの子供は大丈夫だろうとのことでした。一緒に暮らしている限り、Bの「何か」の気配が色濃く染み付き続けるから大概のものは避けて行くし、そもそも霊的なものに害を受け難い性質だから、と。現に、帰りにB夫が外出のついでに駅まで送ってくれた時には、道にたむろしている悪いものは寧ろ避けていたそうで。……問題は、恐らく付近に住んでいる人だろう、と……。何か、後味の悪い話になってしまいました。

読んでくれた人、どうも。後味悪くてすまん。俺も何かスッキリしなくて、吐き出したかったんだ。多分、Aもそうだと思う。Aは「視える人」だけど、だからと言って漫画に出てくるスーパー霊能者のようなことは出来ないのだと言っていました。絶対に勝てない、何も出来ないと解っているものには関わらないようにしている。いちいち手を出していたら今まで生き延びていない、と漏らしたのを聞いた記憶があります。ただ、何も見えないのに危険は自動的に防がれるBは羨ましくないか、と重ねて訊ねた時には、重そうにはっきりと首を横に振っていました。
「絶対に、思わない。あんなモノに身体の中に棲みつかれて自分で気付いていない、なんて死んでも嫌。上手く説明できないけど、結果として助けてもらったことがあっても、アレは感覚が受け付けない」

普通の霊と何が違うのか…との質問に対する答えは、「情念がない」でした。
「違和感については説明し難いけど、解りやすく言うとね。霊ってある意味で心が剥き出しで存在してるようなものだから、人でも動物でも必ず何か色というか想いが見えるんだよ。『生きたい』とか『苦しい』とか、シンプルなのでも。その情念に基づいて、こっちの世界で祟ったり守ったりするんだから。でも、Bのアレにはそれが見えない。何か意思があって能動的に動いてるのは解るんだけど、その源になる想いが一貫して全く無い。Bの中から出て来る時も、Bの中に戻って行く時も、井戸から出てきたモノとぶつかってた時でさえ、全く無かった。霊的なものとしては、絶対に有り得ないことなんだよ」
……本当に、Bに棲みついているモノは一体何なのだろうか?

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