友人から聞いた、20年程前の話。近畿地方に住んでいた友人は、子供の頃お父さんに連れられてよくあちこちの山に連れて行ってもらっていたそうだ。その日はN県の山奥にある大きなダムへドライブに出掛けたという。車を駐車場に止め、展望台へ向かうと、そこには一人だけ先客がいた。
よく晴れた日で、遠くからでもどんな人か、よく確認出来た。クリーム色のセーターにフレアスカート、ロングヘア・・・若い女性だった。季節外れの山中の観光地には場違いな感じがして、何だかとても気になったそうだ。彼女は手摺に凭れ掛かって友人達を一瞥したそうだがいきなり、やった。手摺を乗り越えて身投げしたのだ。
お父さんと友人は慌てて駆け寄って見下ろしてみた。50mほど下のコンクリートに女性は血を流して倒れている。即死だろう。携帯電話も普及してない時代の事、お父さんは友人を車に乗せ、ふもとの町まで事故を知らせに行く事にした。曲がりくねった山道を車を走らせながら、お父さんは「決して後ろを振り返ってはいけない。バックミラーも覗いてはいけない」と言ったそうだ。
だが、とても気になる。友人も、小さな頃から霊感が強く、背後に何だか禍々しいものを感じていた。・・・耐えられなくなって友人はバックミラーを見た。 さっき身投げしたはずの女が、頭から血を流してついて来てる。一瞬だがはっきり見た。口を真一文字に結んで黙々と歩いてついて来るという。車は全速で山道を下り降りているのに・・・友人は泣き出してしまい、町まで助手席に突っ伏したまま動けなくなってしまった。町に着き、警察に駆け込んだ時には、女は消えていたと云う。
お父さんも実はかなりの霊感の持ち主で、狐憑きの除霊なんかもした人らしいが、何故、女がついて来たのかは判らない、と言っていたそうだ。