蝶々の恩返し

この間、知り合いがこっそり某所(遊泳禁止区域)へサーフィンしに行った時の話をひとつ。サーフィンは、最初はボードの上に腹這いになって沖の方へ行く。その時、ふと見ると波間に漂う汐の小枝の上に、蝶々が一匹羽根を閉じたまま止まってた。(こんな季節に、蝶々かあ)と思いながらしばらく見てたんだけど、サーフィンする人間が来るぐらいだから、岸に近づくにつれ、波が立ってくる。小枝も波に連れて揺れるんだけど、蝶々はじぃっと小枝に止まったまま。彼はなんだか蝶々が可哀想になって、その小枝を掴んで海面から高く上げて浜まで持って帰り、道路を挟んだ向かい側の草むらへそうっと置いてやった。蝶々はまだじっとしてたけど、そのうちどっか行くだろうと思い、またサーフィンしに海へ戻った。で、何時間かして、そろそろ帰ろうかなと思って浜の方を向いたら、いきなり体が沖の方へ強烈な勢いで流されて行く。横へ逃げようと思っても、にっちもさっちも行かない。(こりゃヤバイ!俺マジで死ぬわ!!)彼が真剣に青ざめた時、目の前を何かひらひらするものが横切った。え?と思って見ると、蝶々。それが、彼の右斜め後ろの方で、何度も何度も円を描いて飛んでいる。(こっちへ来いって言う事か?)彼はぞっとしたけど、どうせ一度は死ぬんだからと思って覚悟を決め、蝶々が飛ぶ方向へ泳いでみた。すると、楽々とは行かなかったけれど、ちょうど蝶々が飛んでた辺りでどうにか
その流れから抜け出す事が出来た。まだ、ひらひら飛んでた蝶々に、試みに手を差し伸べてみると、すうっと止まったので「助けてくれてありがとうな、浜まで一緒に帰ろうな」そう言いながら、泳いで帰って来た。
渚へ辿り着くと、蝶々は何事もなかったかのように、どこかへ飛び去ってしまった。

…それにしても、こんな季節に水に漬かりたいだなんて、それも遊泳禁止区域で一人。私にはそっちの方がよっぽど恐い話。

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