親戚の神社で御祓いの手伝いをした時の話。確か夏の頃だったと思う、一人の中年男性が社務所に来た。その人が言うには、どこかの山に登って以来、女性が付きまとうって話だった。ウチの地方は県内でも変わっていて、未だに妖怪とか山の化生とかって話が多い。神主をしている叔父曰く、「山女に魅入られたんかもしれん」との事だった。確かに、その男性は憑かれた経緯を話している間も目が山の方を見ていて、上の空で話しているような、なんとも気味が悪かった。
とにかく、御祓いをと言う事になった。神前に榊とお神酒、お供え物をし、その前に男性に座ってもらった。神主である叔父が御幣をささげてから、祝詞を唱える。その間、俺は男性の斜め後ろで待機。何かしらの指示が出るのを待つ。男性は頭を少し下げ、神妙に祝詞を聞いているように見えた。しかし、しばらく後、頭が激しく振れ始めうめき声をあげ苦しそうだ。
「おい!抑えろ!」
叔父に言われ、男性を押さえ込む。そうすると物凄い力で暴れだした。なんとかかんとか押さえ込んでいると、叔父が御幣を神棚から取り、男性の背中に当てサッと払う。
そうすると背中の真ん中辺りから、長い、本当に長い黒髪の束がバサッと翻った!「うわっ、出た!」と思った。
その背中から出た髪の長さは1メートル以上はあったと思う。その男性の背中から生えているのに、頭が付いていて暴れているようにバッサバッサと動いていた。
「おい!髪を引っ張れ!」
叔父が怒鳴る。腰が引けていたけど、両手で髪をつかんで、思いっきり引っ張った。大根とか根菜を引き抜くような感じってわかる?そんな感じがして、急にスッと抜けた。勢いあまって引っくり返ったけど、スグに起き上がって両手を見ると、一束の黒髪があった。
「こっちに渡せ」
叔父に言われ渡すと、叔父は懐紙に包み、神前に置いた。
「あとで焼いて清めんとな。女の髪は念が篭る」
男性は気絶していた。男性に清め塩をかけ、御幣で払うと起き上がり、「体が軽くなりました」と言う男性に叔父は言った。「山女に魅入られたのですね、今度からは心を清めて入山してください。あのままだと、貴方は山に魅入られて、帰って来れなかったかもしれない」男性に髪の束を見せると、腰を抜かしていた。その男性は礼を言うと、何度も頭を下げながらも帰っていった。
その後、叔父と俺は境内に小さな櫓を組み、清め塩とお神酒をかけ、燃やした。普通の髪は燃えると嫌な臭いがするけど、その髪は植物と土の臭いがした。