【不気味】『音のない雨』が降ってきたとき

山仕事中に大雨に降られ、カッパを羽織って作業を続けた爺様。フードに当たる猛烈な雨音しか聞こえない中、黙々と下生えを刈っていると、ふと音が消えた。不信に思って顔を上げると、相変わらず雨粒は勢いよく顔に当たるのに音が一切聞こえない。「こりゃあ耳がイカレたか?」と呟いたら、その自分の声はハッキリ聞こえたそうな。

試しに持っていた鎌の刃を指で弾くと、キンッと小さな金属音が確かに聞こえる。それなのに雨音だけがまったく耳に響かない。奇妙に静まりかえった山の中で、爺様は心細くなり、震えながら「勘弁してくれ」と小さく呟くと、
それに答えたのか、唐突にバチバチッ!とフードを叩く雨音が戻ったという。「狐狸の類にからかわれたんだろうな」と当時を思いだして語る爺様であった。

メールアドレスが公開されることはありません。