人の周りを飛ぶ無数の光る虫を見たことがある

仕事を終えて、仲の良い同僚と連れ立って駐車場に向かう。
「お疲れ様ー」
「また明日ね」
互いに手を振って車に乗り込もうとした時、ふと動きを止めた。いつの間に現れたのだろう。同僚の周りを小さな光る虫のようなものが飛び交っている。少なくとも、一緒に駐車場まで歩いて来る時には気付かなかった。飛蚊症というか。似ていると言えば似ているのだけれど……何故か猛烈に嫌な予感がして、思わず同僚を呼び止めていた。

「あのっ、そういやさ、こないだ言ってた本、もう買った?」
「まだだけど……」
面食らったように答える同僚が怪訝そうに眉をひそめるが、深く考える暇もなく矢継ぎ早に自分は次の話題を振る
「あ、そういえば、この間もらったお菓子、超おいしかったよ!あれ、どこで買ったの?」
「袋に書いてあったと思うけど……」
「あ、そ、そうなんだ。あ、そういえば、スーパーの特売日っていつだっけ」
「今日だよ?」
同僚は家庭持ちのため、『早く帰って夕飯を作りたい』というのが見え隠れしている。結局5分近く立ち話をした後、
「ごめん、そろそろ帰るね」
と同僚が切り出した
「う、あの、長話してごめん。……でも、気をつけて!気をつけて帰ってね!」
「うん。じゃ、また明日」
駐車場から出る同僚の車を見ながら、何故かそわそわして落ち着かなかった。

晩ご飯を食べ終わった頃、同僚から電話が入った
『ちょうど私が通る5分くらい前に事故があって、すごい渋滞に巻き込まれちゃった』
いつもは20分の道のりが、1時間近くかかったという。ごめんね、と謝って電話を切った。

結局、あの光る虫が何だったのかは解らない
あれ以降、同僚の周りでも見ていない

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