以前、友人がこんな話をしてくれた。
友人は幼いころ、毎年夏休みを父方の田舎で過ごした。滞在中は、おじいさんと散歩に出るのが日課だったそうだ。
その日もいつもの散歩道を二人で歩いていたのだが、ちょうどさしかかったおじいさんの田んぼの中に、目に留まるものがあった。7月のおわり頃の一面青々とした水田の中で、一本だけ黄金色に色づいた稲穂を見つけたのだ。それは田の中心付近にあり、他よりも穂先一つ分高くてよく目立ったそうだ。不思議に思ってたずねると、おじいさんも気付いていた様子で、「ああ、そうだなあ」と何でもない風に言う。その返事に拍子抜けしかけているとおじいさんは、「ちょっとここで待っていろ」と言って、田んぼ脇の物置小屋で長靴に履き替え、水田に分け入り件の稲穂を摘み取ってくると、次のように語ったそうだ。
通常稲の実る時期よりも早く、一本だけ色づいた稲穂が出ることがある。それは必ず田の中心付近に、他を見下ろすように生えるのだという。その穂先には確かに実が詰まっているのだが、その稲を放置しておくと、どういうわけか周りも同じように早々に色づき、しかしそちらには全く実がならないのだそうだ。
話を聞いた友人がおじいさんに「その稲は悪いヤツなの?」とたずねると、おじいさん曰く、「どちらかというと、周りの方が身の丈に合わないことをしてしまうんだよ」と言って笑っていたそうだ。ちなみに、食べると長生きできるらしい。確かに友人のおじいさんはかなりの健康ご長寿さんだ。