全てを見て、俺は気絶してしまった

島根県のある地方で。




現在二十歳の自分は山の奥深くに住んでいる。普通山の麓や悪くても道の通った中腹に住むのが一般的だ。何故か我が家は寺や林業に従事している訳でもないのに頂上付近の山中に家が構えてある。幼い頃からだったので特別不思議はなかったし、逆に見晴らしのいい場所で嬉しかったもんだ。

幼い頃よく山で遊んだ。山全部が自分のものみたいで嬉しかった。誰も来ないし、辺鄙な場所なのに秘密基地があった。そんな場所必要ないはずだが、子供とはそんなもんだ。秘密と名がつく自分だけの場所ってのは存在するだけで楽しいもんだ。

その場所は神社。しかも完全な正方形で左右対称。木の位置や庭石みたいなものの数まで。さらに凄いのは前後も鏡みたいに対象なんだ。奇妙なんだけど、鳥居も東西南北にあり、社も四面にある。勿論狛犬も八体いる。

そんな奇天烈な神社で人も来ないもんだからちょくちょく一人で来てた。一人しかいなかった訳じゃない。1キロ下には幼なじみがいたから行けば良かったんだけど、この神社には連れて行けなかった。祖父に他人を連れて行っては行けないとキツく言われていた。さらにキツく約束させられていたのは「この神社は西から入って南から出なければいけない。10月だけは北から入って出口は東さらに夜は行っては行けない。もし行ったら鳥居じゃない場所から出る事」ということ。なんか本当に秘密基地みたいで嬉しくて自分は暗号みたいなもんだったし、祖父が大好きで守っていた約束だった。

先日久しぶりに帰る事になった。そして今夏の盆に祖父と久しぶりにその神社の話をしたんだ。酒を飲むようになった自分に喜んで祖父はどんどん勧めてくれるから二人して多いに飲んだ。翌日二日酔いの早朝に祖父が自分を起こす。早朝どころかまだ夜中の3時。祖父は真っ白な服を来て白い徳利に日本酒を持っていた。さらには肩には朱色のしめ縄。

「夕べは楽しかったな。朝早くて済まないな。これから大事な用がある。夕べ話した神社に着いて来てくれ」眠くて冗談じゃないと断ろうか迷ったが、祖父は深刻な顔をしている。いつも優しい笑顔で微笑みを浮かべる仏様みたいな顔の祖父。その顔が渋い険しい顔になっている。何かあると思い。着いて行く事になった。

夜だが、朝に近い。秘密基地の約束からするとこの場合どこから入るのだろうか?と思案していると「北から入り、西の空より風を追い。東の光に雨を掛け、また北より出でる。南にあるは死の国ぞ。根の国ぞ。世見の囲いにはりたもう。はいりたもう。天下りし神の園。スサの大神、御神石。はらいたまえ、きよめたまえ四神の封じに参りたるかな。氏の繋ぎたるをかしき、申す、申す、申す、申す。
地の蛇、草蛇、黒の蛇、八つ首蛇。スサの大神剣を巻いて」こんな感じで唱え出した。後に自分も暗記させられた。

ちなみにこの文句にはまだ続きもあるし、少し改変してある。完全な文句を口外してはいけない決まりらしいので。その長い祝詞のような言葉が終わり、ちょっと変わった方法で神社にやっと入った。そして自分は南の鳥居で待たされ祖父は1人で南側だけを閉めて、残りを開け放ち社にいた。こちらからは何をしているのか見えない。

しばらくすると左右の御神木から真っ白な人が、神主がよく持っているヒラヒラを背中にはためかせながら出てきた。その人、目が三つあるんだ。それに背中のあたりも光っている。自分は無論ブルブルと震え、生まれて初めて失禁した。人間びびると尿を漏らすのは本当だと実感した。

時間の感覚がなくなるというか、時が止まる感じがした。すると、南の社の扉が大きく強く開いた。当然祖父だと思った。祖父は祖父だったが、何か違和感があった。大声で「そいつらから離れろ!」って言うんだ。自分は左右にいる2人の白い人を神様だと分かっていたから、信心深い祖父が「そいつら」と表現するのに疑問と違和感を覚えた。

勘は正しかった。祖父は、いや祖父の形をしたものの首がいきなり落ち、首のあった場所から真っ黒な蛇が何匹か出てきた。自分は霊感はあんまりないはずだけど、この黒蛇だけはヤバイって感じた。幽霊とか、悪霊とかってレベルじゃないと直感的に悟った。

次の瞬間、左右の神様?が剣を持ってるのに気付いた。神様はそれぞれ左右の、東西の鳥居の方へ進んだ。神様も初めて見たから怖かったけど、黒い邪悪な蛇ははるかに怖かった。害意と殺意がハッキリとあらわれていたから。頭が黒蛇の祖父の偽物みたいなのが、一歩、二歩とこちらに近づいてくる。あぁぁこりゃ、死ぬな。神様かじいちゃん、助けてくんねーかなって思った。

その瞬間俺は気絶したようだった。気付いた時は四方を開け放った社にいた。ど真ん中には剥き出しの御神体。剣なんだけど、かなり錆びてるやつ。そして隣には、いつもの仏様みたいな優しい祖父の笑顔。

「良かった。説明は短めにするから聞いてくれ。我が家は何代前かは分からない位昔からあの神社の護りをしてきた。分かってるとは思うが、あれは普通の神社じゃない。参拝客が来ないとか神主がいないとか、賽銭箱がないとかじゃない。そしてさっきお前が見た神様も蛇も夢じゃない。あれはな、もっと偉い神様の記憶なんじゃ。そして、お前に役目を引き継ぐ儀式だ。ワシも昔祖父から引き継いだ。しかし、お前の両親は知らない。代々孫に引き継ぐ決まりなんじゃよ。怖かったろうなぁ、すまんなぁ。でも運命なんじゃ、これだけは。別に何かこれからしなければならないとか、神主になれとかは一切ない。とりあえず管理や掃除はワシが死ぬまではやる。しかし、死んだらお前がやるんだよ。そしてお前もまた孫にワシがした事と同じ事をするんじゃ。儀式と言葉を覚えて、あとは掃除や管理をしておけば良い。あの約束を守ってな。」

涙を流しながら祖父がそう言った。
「大学を出たらこっちで暮らせよ。ここでの暮らしが怖くなったろうけど、本当に普段何もしなくてもいいし、お前がまた神社に行っても何も起こらないから安心しなさい。」
今二十歳。あと2年で京都の大学を卒業し、ここで暮らす事は確定してしまった。現代人である自分はこんなオカルトな事には関わりたくないが、起こってしまった事は否定しない。しかし結婚はしても子孫を残すかどうかは迷っている。

しかし、こんな不気味で恐ろしい儀式というか習わしがよく今まで家が断絶もせず、今の時代まで続いたなぁと感心している。そしてその理由が最近分かった。

こないだある神社に彼女とおみくじを買いに行った。彼女はおみくじが大好き。手を打って目を閉じたらブワッっと風が吹いた。彼女はまだ手を合わせて祈っている。振り向くと、例の白いヒラヒラを背につけた神様二人が狛犬の場所にいる。自分には、多分死ぬまでこの神様がついてるんだと思った。アレしてる時もいると思うと不愉快でならない。

『全てを見て、俺は気絶してしまった』へのコメント

  1. 名前:匿名 : 投稿日:2016/01/18(月) 18:21:10 ID:gyNjI3ODI


    邪悪だと思った黒い蛇から、守ってくれてる存在じゃないか
    御先祖もいやだなあ、怖いなあと思いながらも続けてきたんだし平気さ

    普通の人にも守護霊がついているっていうから、アレしてる時のことも気にすんなw

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