大学生のころ、暇な時間を利用して泊り込みのアルバイトをしていました。場所は京都の宇治の山のふもとあたり。仕事は建築装飾用のFRPの制作で、夜遅くまで残業があったり、現場へ製品を取り付けに地方までトラック飛ばして行ったりで、きつかったけど月に20万を越える収入になったのです。
工場の横には大きな倉庫があり、作ったけれど商品にならなかった製品が山のように押し込まれています。中でもダントツで気色悪かったのは、FRPで作られた水子地蔵で何体も並べてあり、目にはいる度にぞっとしました。夜は一人で工場に泊まりこみするのですが、主電源を切られてしまうので真っ暗。田舎だし本当に闇。冬の夜はしんしんとして寒かった。そんな中でも仕事がきつかったせいもあり結構平気でねてました。
ある冬の寒い夜、10時くらいに布団に入り眠りにつくと、夜中にいきなり枕に付けている方の耳に激しい耳鳴りがし始めました。こりゃ~金縛りがくるな~。といつものように耳を枕から引っぺがそうとしたり、声をだそうとしてみたり、目を開けようとしてみたりの無駄な抵抗を試みました。色々やるのだけれど効果が無く、僕の体は金縛りに絡めとられてしまいました。
意識ははっきりしているが体が動かない。目は開いているのか閉じているか、それとも夢を見ているのか。いつもはしばらくしたら金縛りが解けてめでたしめでたしなのだけど、そのときは違った感じがしました。僕の枕もとに何かが居る。あっ犬だと思いました。なんで犬だと判ったかっていうと、耳元にフンフン、フンフンという吐息をしきりに吹きかけてきたからです。恐怖感はありません。しばらく僕の耳を嗅ぎまわった後、金縛りが解けると同時にその犬の気配も消えました。近くで消防車のサイレンの音が聞こえていたが気にせずにまた寝入りました。
翌朝出勤してきた職人たちが近所で火事があり、一人暮らしの老人が焼死したらしいと聞きました。ちょっと驚いたのは、その老人は動物好きで犬やネコを何匹も飼っていたそうだが、その動物達が一匹も逃げ出さずに老人とともに焼け死んだ、という事を聞いたからでした。
あの夜僕の枕もとへやって来たのは、老人とともに死んだ犬のうちの一匹だったんだろうか?だったらなんで僕の所へ?もしそうなら何も気づかずに寝てしまってごめんなさい。