一昨年の初夏の頃、静岡の山の中で小道を散策していました。斜面の下のほうに水のきらめきの様な光を見つけ、小道をはずれて斜面を降りていきました。鬱蒼とした森の中に小さな池がありました、池と言っても六畳間位の広さです。そこだけは日の光に満ちて別世界のように感じました。
池のほとりには危急種と言われるヤマシャクヤク等の珍しい植物が生えています。図鑑でしか見た事の無い植物に時間を忘れて観察を続けました。ふと気がつくと池の対岸に薄っすらともやが見えます。そのもやが池の水面を滑るようにこちらに向かってきて、自分の足元にまとわりつきました。
とたんに激しい寒気とうなじの毛まで逆立つような鳥肌、頭痛と軽いめまいに襲われました。爺さんからタバコは魔物を遠ざけると聞いていたので一服付けてその場所を去りました。自動車に戻るまでもやは山肌を滑りながら着いて来ました、ごめんなさいと一礼し車に乗り込むともやは消えていました。