春の終わりに実家の墓参りに行ったという。墓は小さな山の上にあり、結構歩かなくてはならないそうだ。よく晴れた空の下、山道には虹色の光沢が乱舞していた。班描だ。この甲虫には人が近づくと、飛び退っては振り向くという習性がある。そのため『ミチオシエ(道教え)』という別名が付いている。自分の田舎にこんな美しい虫がいたのかと、彼はすこぶる感心していた。
道が二股に分かれている所で、班描たちは奇妙な行動をした。明らかに片方の道にだけ進もうとする。何匹かは別の登り口を行こうとする彼の前に出て、遮ろうとでもするみたいだ。本当に道を教えているみたいだな。面白く思った彼は素直に虫に従い、いつもとは別の道から墓所に向かったという。
帰り道、あれだけいた班描は姿を消していた。残念に思いながら馴染みの道を下っていると、行く手を塞いでいる影が見えた。大きな朽ち木だった。様子からして、先ほど倒れたばかりのよう。偶然だろうけど、ひょっとしたら危険を教えてくれたのかもな。そう笑いながら彼はこの話をしてくれた。