あるところに「角田の森」という場所があった。うっそうと木々が生い茂る森で中には1軒だけぽつんと廃墟となった民家があった。「角田の森」の近くに住むこどもたち3人はいつもその場所を遊び場にしていた。ある日、いつもは立ち入らないのだがリーダー格だった少年が「民家の中を探検しよう!」と言い出し3人で民家に立ち入ることにした。廃墟となった家はボロボロに朽ちていた。実はこの廃墟となった民家は「何か得体のしれないものが住み着いている」という噂があり大人でさえも近づかなかったのだ。
少年たちが廃墟の中に入ると年老いた老人の姿があった。廃墟と思われていたその家は老人が使っていたのであった。老人は勝手に侵入してきた少年たちに激怒して平手打ちをして「出て行け!」と叫んだ。少年たちは、転がるように民家から退散した。しかし、負けん気の強かったリーダー格の少年は「夜にもう一回、あのお化け屋敷へ忍び込もう!」と言い3人は夜にもう一度民家に訪れた。昼間の老人が恐ろしく、3人はそーっと民家に忍び込んだが、家の中に昼間の老人の姿はなく、10畳ほどの広い部屋の真ん中には見たこともないような祭壇が1つ置かれていて祭壇には「ジンカ」と書かれた御札が貼られていた。リーダー格の少年は「仕返しだ!」と叫ぶとその祭壇をひっくり返してしまった。その直後、地響きのような轟音がとどろき、びっくりした3人は廃墟から逃げ去った。
それから5年が経ち、廃墟での一件も忘れかけていた頃にリーダー格の少年の元に「角田の森の件で・・・」という不審な電話がかかってくるようになった。少年は不思議に思い一緒に廃墟に入った2人にも連絡を取ってみると、他の2人にも同じ電話がかかってきていることがわかった。
それから数年後。リーダー格の少年は自殺した。
遺書には「もう耐えられない。死んで楽になります。ごめんなさい」の一文があった。そして残された大学ノートには「ニシナ」という字がびっしりと書かれてあった。
ニシナ? ふたりはこれを見て、あの角田の森の廃屋で見たお札のことを思い出した。お札には、お経のようなものが書かれていて、最初の文字が仁科という漢字だった。そのときは、これが読めなくて、じんかだと思っていたことを、である。 「ニシナ、仁科、ジンカ」が、いったい何を意味するのかは、謎のままである。