【某国でのトラウマ】餓鬼道に堕ちた白装束集団【怨念の吹き溜まり】

数年前、私がまだネットも2ちゃんねるもやっていなかった頃。ブームという言葉に乗せられて、とある国へ旅行へ行ったことがある。旅行は大して面白くもなく、免税店くらいしか行くような場所もなかったのだが、その晩に恐ろしい体験をした。

夜の10時頃だったと思う。夜中の外出は治安の関係でしないほうが良いと言われていたのだが、なんとなく寝付けず少し夜風に当ろうと外出する事にした。出国の再に注意されていたので、ホテルの従業員に外出をとがめられるかと思ったが、そんな事はなくあっさり出られたので、私は地図を見て近場にある山の中の公園まで散歩した。

公園の入り口に差し掛かった頃だろうか、林の中に白っぽい服を来た人がたたずんでいるのが見えた。「こんな時間に?」と少し不思議に思った。その事は気にせず、しばらく公園を歩いていると、ある異変に気が付いた。白っぽい服を着た人は1人ではなく、気が付くと公園の林の中に無数にいることに気付いた。

その人々は何をするわけでもなく、たたずんでいたのだが、しばらくするといっせいに林を出て公園の中心部辺りに集まり始めた。私は「ちょっとこれはまずいかな…」と思い、その集団を迂回するように早足に帰ることにしたのだが、そこで2つ目の異変が起きた。

白っぽい服を着た集団が、突然奇声を上げたかとおもうと、集団の中の一人の男が隣の老人に噛み付いた。そしてあろうことか噛み付いたまま肉を引きちぎり、むさぼり食い始めた。さらに男と言わず女と言わず、その男の奇行がまるで開始の合図だったかのように、お互いがお互いを殴り飛ばし、蹴り、噛み付き、むさぼり食い、犯し、凄まじい阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り返された。

私はあまりの出来事に、なかばぼうぜんとしていたが、これはまずいと走って逃げ出し、ひとまず警察を呼ばなければとホテルへと急いだ。後ろからはまだ悲鳴とも絶叫とも言えない恐ろしい声が響いてくる。

公園の出口に差し掛かった辺りだろうか、ふとその奇声が聞こえなくなった。私は反射的に振り向いた。すると先ほどまでの地獄絵図が嘘であったかのように、あの光景が一瞬のうちに消えていた。私は何が起きたのかさっぱりわからず、「あれは幻覚か夢だったのだ」と自分に言い聞かせ、翌日その国を後にした。

旅行から帰ってから数日後、私に異変が起き始めた。ちょっとした事で他人の言動がしゃくに障るようになり、周囲に人々に当り散らすようになり、さらに昼夜を問わず異常な空腹感にさいなまれるようになった。しかも食べても食べても満腹になれず、それどころか私の体はみるみる痩せ細り顔色も悪くなっていった。自分でもこの異常な状態に気付いていたため、何件か病院へも行ってみたのだが、医者はストレスだろうと言うばかりで、状況が一向に改善しない。

そんな日々が数週間続いた頃だったと思う。私は仕事が遅くなり、終電を逃してしまったためタクシーで自宅に帰る事にした。タクシーを呼び止め車内に乗り込むと、どうもタクシー運転手の様子がおかしい。会話もなく、ちらちらとこちらをうかがっており、非常に挙動不審で、私はイライラして不機嫌そうに「なんだ?」と文句を言った。

するとそのタクシー運転手はぽつりぽつりとこんな事を言い始めた。
「こんな事は言いたくないのですが…あなたには何か非常に恐ろしいものが取り憑いています。最近身のまわりでおかしな事はなかったですか?早急にお払いをした方がいいと思うのですが…」
私は心当たりが十分にあったが、急に恐ろしくなり「もうここでいい!」と運転手に言うと、料金を払いそのまま後は徒歩で家路についた。

翌朝、私は昨晩のタクシー運転手の言葉が気になり、最近の出来事が不安でもあったため、「体調が悪いから」と会社を休むと、実家のほうにある本家が檀家をしているお寺へと相談におもむいた。お寺に到着すると、住職は私の姿を見るなり何も言わずに「とにかくこちらへ」と本堂へ誘導し、そのまま何の説明もないうちにお払いが始まった。

お祓いが終ると、住職は私にこんな事を言い始めた。
「あなたは最近某国へ行きましたね?最近あの国からよからぬものを持ち帰ってしまう人が増えている。あなたもそういうよからぬものに憑かれていた」と。
そしてさらに住職はこう続けた。
「あの国は数百年、もしかしたら千年以上も餓鬼道に堕ちた状態が続いている。その状態のまま人が死ぬとそこにとらわれ、逃れる事もできずに怨念の吹き溜まりの渦ようなものができている。もしここにこなければ、あなたもいずれその吹き溜まりに取り込まれていただろう」と。

そして住職は、私はあなたに憑いていたものを成仏させたわけではない、「元の場所に送り返しただけ」なのだという。さらに住職はこう続けた。
「我々外国人は、あの国の中ではまるで闇世の中の光のようなものなのらしい。怨念の渦の中から逃れたい人々は、外国の人を見かけると、渦から逃れたいがためにその人に取り憑くのだ。あの地域そのものは、もはやどうにもならない。だから私達に出来る唯一の自衛手段は「係わり合いにならない事なのだ」」
これ以降私の体調は元に戻り、精神的にも以前のように落ち着くことができた。そして、私は二度とあの国へは行くまいと心に誓った。

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