家庭の事情の為にF君は小学校四年のときに、母方の田舎にあずけられることになった。ちょうど時期は夏休みで、F君は朝から晩まで野山を駆け回って遊んだ。ある日、それまで来たことのなかった山まで足をのばしてみたF君の前におなじくらいの年齢の少年が現われた。少年は泥で汚れたような格好をしていて、とても痩せていた。人口流出が激しかった山間の村に来てから初めて同じ世代の子供に会うことができたF君は、とても嬉しかった。F君が笑いかけると少年はニヤリと笑い「腹は減っていないか?」と、問いかけた。F君は朝食を食べてきたばかりだと答えた。すると少年はまたニヤリと笑い、「この山を越えた先に俺のうちがあるんだけれども来ないか?うまいものがたくさんある。」と誘ってきた。F君は少し迷ったが、なんとなく少年が不気味に思えてきたので断って帰ることにした。
道々、その少年が後をつけてきているようにも思えたが、無視してまっすぐ家に帰った。次の日からその場所には行かないようにした。
夏休みが終わり、F君はその村の小学校に編入した。その村の小学生は低学年の女の子二人と、六年生の男子が一人、あとは新しく転校してきたF君だけだった。あの少年は見当たらない。F君は六年生の男子と仲良くなって、一緒に遊ぶようになった。都会っ子のF君に彼はいろいろな遊びを教えてくれた。遊んでいるうちに、あの不気味な少年と出会ったところの近くまで行ったことがあった。そのときに、六年生はF君にこの山に住むという化け物のの話をしてくれた。なんでもそいつは爪は鋭いが歯が弱く、人間の臓物を切り裂いて、その中身を啜って食べるのが大好きだそうだ。ただ、山の神になわばり以外で人を食べる禁じられているために自分の住処にまで人を騙して連れていこうとするらしい。六年生はまぁ、俺は実際会ったことはないんだけれどね、といって笑った。