信じるか信じないかは別として知り合いに変わったやつがいる。小学校時代からの友人で、現役の住職をやってる。私自身は霊感なんてこれっぽちも持ち合わせていないのだが、こいつのせいで何回かありえない現象にあっている。そろそろ就職活動をはじめるかくらいの時期の出来事。学食で一緒にご飯を食べて、午後のひと時をまったりとすごしていたときに、青白い顔した女をつれた友人Aがうちらの所にやってきた。
友人Aいわくちょっと住職にこの女の子Bの話をきいてほしいということだった。無論私もその場にいたので、一緒に話を聞くことになった。ぱっとみわりとかわいいこの女の子Bが話を始める前に、ふいに住職が女の子Bをジーと見て「だいたいわかったからその家から引越ししたほうがいいよ」とにこやかにいった。
そのことを聞いた女の子Bはいきなりすすり泣きはじめて、「やっぱり・・そうなんや・・やっぱりそうなんや・・・」
隣で聞いてた私は、さっぱり話が見えない上に理解できない。そこで女の子Bに、何があってどうなっているかを詳しく話せと問いただした。女の子Bはぼそりぼそりと、ここにきた理由を話し始めた。
大学にはいってから住んでいたアパートに最近妙なことが起こっている。夜中に寝ていると、どうも人の気配がする
そう気がつくと、金縛りにあい回りの空気が重く冷たくなり、耳元で女の人の少し苦しそうな息づかいが聞こえると・・・・。
昨日の夜、とうとうその苦しそうな息をする女が、顔を覗き込むように頭上に正座しているのに気がついた。覗きこむ顔は、焦点があわないような目をしていて顔にはひどく裂けたような傷が下から上まで広がっていて、口は閉じているのに、裂けたほっぺたから苦しそうな呼吸音がしていたというものだった。
私「ははっ 第一見る前から女の人というのがわかるって時点で夢じゃないの?それに金縛りも精神的なものですよ。
今、いろいろと難しい時期だから、そういうのもかさなって疲れてるんじゃないのかな。
それに簡単に引っ越せるものでもないでしょ?そう思うからそういう風に感じるんだと思うよ」
というと住職のやつが「うーーん・・・」
住職「たしかに簡単に引っ越すのは難しいな 面倒だけど私が行ってお清めしますよ」
私「だから・・なんでお前はそうなんだ?」
住職「はは ならお前も一緒に来て本当か 嘘かたしかめればいい それが一番だろ?」
その女の子Bは部屋に帰るのが嫌なので鍵を預けるから・・・と主張したが、それは解決にならんからだめだと説得して、私、住職、友人A、女の子Bでその件の部屋で一晩すごすことになった。
その部屋は別段かわった所もなく、6畳一間に2畳ほどの台所とガラリ2枚扉の押入れ、ベランダにエアコンその他もろもろとまぁそのへんによくある構造の部屋だった。色々な可能性(異常者やストーカー(当時はこんな言葉はなかったですが))を考慮して住職と私は押入れ、友人Aと女の子Bは6畳のところで寝るときめ、夜になるのをまった。
女の子Bは最初、異常に怯えていたが、住職と、他にも人がいるので、まぁ安心したような感じだった。大体0:00くらいになったときに、取り決めどおり、私と住職は押入れに、Aは床に、女の子Bは布団という感じで寝た。
どれくらい時間がたったか、少しうとうとしてた私を住職が小さな声で「おい起きろ、来てる・・こりゃ・・俺じゃ無理かも・・」と。押入れの隙間から部屋を覗くと、なんとなくですが空気が重く、冷たい感じがしていた。 Aと女の子Bは「んんんん・・・・・んん・・」と寝言なのかうなされているのかなんともいえない声を発していた。そのまま少し覗いていると、薄暗い部屋の中、Aと女の子B間に正座をしてうつむいているものがいた。
なぜかわからないが、とっさに3人目の誰かがいると判断した私は、押入れのふすまを蹴りあけた。そしてふすまの上に飛び乗り、ふすまの上に突き出た何者かの頭を蹴った。確かな感触と「み”ゅ・・・」と鈍い声というか音がし、もう一発床の上の黒いものをカカトで踏みつけた。ゴリッと嫌な手ごたえを感じ、3秒ほどの時間をおいてから電気つけた。
電気をつけると、鼻血をだしたAがなんともいえないうなり声をあげて、のたうちまわっていた。すぐに蹴り倒したふすまをめくり、下を確認した。一瞬黒いものがいた様な気がしたが、何の痕跡もなかった。・・・・一瞬の静寂のあと、住職が馬鹿笑いをはじめた。
住職「お前が一番ありえへん。普通蹴りにいかへんよ。けど原因わかったで」
私「いやせやけどなんもいーへんかった。ちゅうより蹴ってしもてごめん、大丈夫?」
A「ふが・・・いや、女がいた。お前が飛び込んできたら消えた。」鼻を抑えて血を拭いてるAが怒るでもなくたんたんと答えてきた。
Aと女の子Bの話を総括すると、2人の間に顔が裂けた女が座っていたらしい。この時点では2人ともはっきりと意識があり、私が飛び込むのを確認したそうだ。ふいに住職がベランダの窓を開けて、ちょっと手伝えと私に手招きした。エアコンの室外機をちょっと持ち上げてくれというのでそうすると、住職は室外機の下に手をつっこんで、「あぁあった。やっぱこれだ・・・」と、白い薄汚れたコンパクトをひょいと取り出した。
「なにそれ?」と聞くと住職は少し難しい顔をしながら、「んー。。なんだろうなこれ。よくわからんが、女がついてる。なんでここにあるのかがわからん。最初からあったのか、はたまた放りこまれた物なのか。最初、部屋が原因だと思ってたんだけど、お前が蹴飛ばした時、空気が窓の外に集中したからわかったんだけどな。」 そういって、薄汚れたコンパクトつつんだ紙を私につきつけた。
よーくみると、ところどころ欠けたり亀裂が入ったり髪の毛がついてたり、どう見ても乾いた血のようなシミがついていた。その後、コンパクトは住職が持ち帰り部屋には何も出なくなったそうだが、一つ気になるのは、最初に蹴っ飛ばしたやつが何なのか。フスマを破らずすり抜けられるものとは一体なんなのか、今だに説明がつかない。