夏休みに家族旅行へと出かけた時の話だ。
旅行先ではコテージみたいなとこに泊まったんだが、部屋を見渡して俺は帰りたくなった。トイレを出てすぐの洗面台のところが合わせ鏡になってたんだよ。何か嫌じゃん。まぁそんな個人の意見が通用するはずもなく、其所に泊まった。事件はその夜に起きた…。
そんなときに限って夜中にトイレに行きたくなるもんだ。嫌な予感はしていたが、案の定俺はトイレへとたった。半分寝ていたからか、恐怖は全く感じられなかった。俺は用を済ましトイレから出ようとした所で、異変に気付いた。
ドアから「こん、こん」とノックをするような音が聞こえたのだ。外には虫が多かったし、部屋の中にもたくさん入り込んできていたので
それらがドアにぶつかってるんだろうと思い、ドアノブに手をかけた。その時、「ドンドン」音は、誰かがドアを殴りつけているように変わった。
家族だったら何か言ってくるはずである。「ヤバい、逃げなくては」そう思ったものの、出口はそのドア一つのみ。そんな所から出られるはずもなく、恐らく10分ほど閉じこもっていたのであろう。それほど時間がたてば「何か」もいなくなっているだろう、そんな考えが甘かった。
トイレから出ると洗面台、急いで手を洗って寝ようと蛇口を捻った。手を洗い終え、水を止めた所で、何を思ったか顔を上げてしまった
前にも述べた通り、其所には合わせ鏡がある。俺はその鏡像の中の鏡の一つに違和感を見つけてしまった。
怖くもあったが、その時は好奇心が勝ってしまった。何が映っているのか確かめようとしてしまったのである。何がいるのか見極めようと目を凝らしてみた。どうやら赤い服をきた女性のようだ。顔は髪で隠れてしまって見えなかった。10秒ほど睨んでいると、鏡の中の女性に変化が起きた。
同時に俺は逃げ出そうとしたが、体が硬直してしまっていて出来なかった。それは瞬きをした瞬間、鏡の中を一つ、コッチへと移動してきたのである。気のせいかもしれない。いや、きっとそうだ。そうに違いない。そう思い直し、もう一度見直した。また一つ近づいて来ていた。
やはり、瞬きをした瞬間にだ。
「ヤバい、このままだと…」恐怖が蘇ってきた。逃げようとしても体は動かない。声はあげられない。暫くそうしていると、急に体が動くようになった。勿論、そのままベッドへ直行。その後眠れぬ夜を過ごした。朝になって家族が起き出してきたときに、夜中にトイレに来たかを一応聞いたが、答えはNO。
あのまま体が動かなかったら、俺は一体どうなってたんだろうか?