ある所に一軒の飴屋さんがあった。夜、もう店じまいをしており、そろそろ寝るかという頃に、表戸を叩く音がした。
なんだなんだと店主が出ると、青白い顔をした若い女が立っている。女はか細い声で「飴を一つ売って下さい……」と。店主は怪しんだが、女が一文銭を出してきたので売ってやった。
翌日も、その翌日も、夜更けになるとあの青白い女が来て飴を買っていく。それが6日も続き、店主は不審に思いながらも飴を売ってやった。
次の日、店主が事の次第を友人に話すと、「それはただものではない。もし今夜も来たとして、銭を持ってくればよし。もしも銭を持ってこなかったら…人間ではないぞ」「どういうことだ?」「六文銭と言ってな、亡くなった時に三途の川の渡し銭として、銭を六文、棺桶に入れてやるのさ。それを持ってきたんじゃないか」その夜、女が来た。「今日はお金がないのですが、どうか飴を……」
店主は「いいでしょう」とお金をとらずに飴を渡し、その後、そっと女の後をつけることにした。女は暗い夜道を行き、墓地へと進んでいく。ある墓の前まで行くと、すぅっと消えた。店主が近づいてみると、まだ新しい墓のようだ。「幽霊であったか、しかし何故化けて出たのか」と思い、帰ろうとすると赤ん坊の泣き声がする。
なんとも妙に思えたが、女が消えた墓あたりから聞こえてくるようだ。店主はその墓を掘り返してみて、驚いた。そこには赤ん坊を抱えたあの女の亡骸があった。
赤ん坊は泣き止み飴を食べていた。そういうことであったか……。子を宿したまま女は亡くなり、埋葬されたが棺の中にて子を産んだ。しかし自分は死んでいるので、赤ん坊が育てられない。それで幽霊となり、夜な夜な飴を買っては子に与えていたのだ。
「三途の川の渡し賃が無くば、あの世に行けまい。それでも我が子を想うか」店主は感心し、子どもを引き取ることにした。「お前の代わりにちゃんと育ててやるから」と女の亡骸に話しかけると、女の首が、がくりと垂れた。
その後、女は現れることはなく、子は長じて立派なお坊さんになったという。
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コレって小川未明の短編作品そのまんまじゃん。