地元に岩肌剥き出しの山があって、その山の中には注連縄が張られた洞穴がある。
村祭りに使用した道具類(榊の枝や藁細工等)は、この洞穴に捨てる習わしとなっている。
昔から、洞穴には山の神とその子供が住んでいると言われ、捨てられた祭り道具を山の神が子供に与えては、遊ばせていると言う。
だから祭り道具(特に藁細工)は、子供が喜びそうな物に仕上げなければならない。
小六の時、洞穴付近で不思議な子供を見た。
お婆ちゃんと一緒に山菜取りをしていると、子供の笑い声が聞こえた。
笑い声のする方へ行ってみると、洞穴の入口前の広場で二人の子供が楽しそうに遊んでいた。
一人は榊の枝を振り回し、もう一人は藁細工を持って、木から木へと、山の岩肌から岩肌へと、ピョンピョン跳び回っていた。
それは人間の子供にはとても真似出来ない動きで、その華麗な動きに思わず魅とれてしまった。
「お~い、○○(俺の名前)」と、後ろからお婆ちゃんの呼ぶ声がする。
その声に驚いたのか、二人の子供は気付いた時にはもう姿を消していた。
合流したお婆ちゃんにこの事を話すと、そんな子供の声なんて聞こえなかったと驚いていた。
その後、良い物を見たねえ~と頭を撫でてくれた。
それ以来、ちょくちょく洞穴まで行ってみるも、子供達には二度と会える事はなかった。
ちなみに、洞穴の奥には山の神を祭る石の祠があり、祠の中には山の神の姿を彫った石碑が納められている。
その姿は中央に女性が、左右には子供達が一人ずつ居て、女性にしがみつく様に彫られていると言う。